ワニ狩り連絡帳2

前世のワニ狩りの楽しい思い出。ネコのニェネントとの暮らし。

『ふくろうの叫び』(1987) パトリシア・ハイスミス:原作 クロード・シャブロル:監督

 この映画は、たしか原作が文庫化されたときだったか、まずはその文庫を読んでからレンタルヴィデオ屋で借りて観た記憶があり、「ずいぶんと原作に忠実に撮ったものだな」と思ったものだった。今回もまた、原作を再読してしばらくしてこの映画を観た。

 監督はかつてのヌーヴェルヴァーグの旗手、クロード・シャブロルヒッチコックの影響からか、70年代ぐらいからミステリーっぽい映画を撮ることが多くなった。あと名作文学の映画化なども多く、そういった作品は日本でも公開されて話題にはなったけれども、今は何だか忘れられた監督というか、ヌーヴェルヴァーグ時代の作品をのぞいて、今はたいていの作品は廃盤になっているようだ。この『ふくろうの叫び』も、DVD化すらされていないようだ。

 この作品で興味深いのは、『エリザとエリック』などの作品を監督したヴィルジニー・テヴネが俳優として出演し、主人公の元妻のトンデモない女(ハイスミスお得意の登場人物)を演じていることかな。
 舞台もフランスにされ、登場人物の名まえも原作とは変えられているけれども、主人公はロベールで、クリストフ・マラヴォアという俳優が演じている。彼が出会う女性をマチルダ・メイ。あとはそのヴィルジニー・テヴネと、刑事役でジャン=ピエール・カルフォンが出演している。

 主人公が設計技師で、パリで妻と別れて田舎に転居していて、自宅では鳥の絵を描いているなど、原作とまったく同じだ。シャブロル監督は「どこまで原作に忠実に映像化できるか」ということにトライしているようだ。
 原作でも主な登場人物の四人はそれぞれに「ノーマルではない」ところがあるのが面白いところだが、特にマチルダ・メイの婚約者のパトリック(原作では違う名だった)の、いかにもヤンキーみたいな頭の悪い直情型の人間の造形は、「こういうヤツいるよね!」と、見ていて楽しかった。
 それから、主人公が周囲から「犯罪者」とみられ、ある事件で、彼が自宅でまた犯罪を犯したのではないかと近隣の人らにみられたとき、彼の家の窓に外からへばりついて室内をのぞき込む人々の、ちょっと表現主義的な映像、その直後の公園でブランコにのる人の短いショットのところは記憶に残った。

 しかしながら、主人公がついにマチルダ・メイと顔を合わせてしまい、マチルダに「部屋に入らないか」と誘われて室内に行くシーン(すべてはここから始まる)はどうも観ていて「ちがう」というか、原作は非常に「不自然」な情況で顔を合わせたのが、その「不自然」さを越えていつしか打ち解けてしまうというわけだが、この映画でなんだか何の抵抗もなくすっすっと打ち解けてしまうのは逆にストーリー展開として「不自然」で、「このロベールという主人公はもっと神経質な、うつともいえる精神を抱えているはずなのに、ずいぶんと図々しいんだな」という気もちになってしまった。そういう、主人公もまた神経を病んでいる(病んでいた)という造形が、少し不足しているようで、これではほとんど「健全」な男に見えてしまう(まあ映像で人の内面を描くということのむずかしさ、ではあるのだろう)。

 ラストの「修羅場」は相当に「原作通り」なのだけれども、ここは原作に忠実に、ずいぶんとうまく演出したものだなと思うのだった。
 ヴィルジニー・テヴネの元妻がそのファナティックさをみごとに表現していて、主人公とこの元妻、そしてヤンキーな婚約者、おどおどしている元妻の今の愛人と、この四人のサスペンス・ミステリー的なドラマの部分は「とっても面白かった」といえるだろう。逆に、「人間ドラマ」としては不満を感じるところがあり、そのあたりにクロード・シャブロル監督の限界もあったように思えた。