昨日はタランティーノの『ヘイトフル・エイト』と、ロマン・ポランスキー監督の『おとなのけんか』を観たのだけれども、意識していなかったけれどもこの『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』は「シャロン・テート事件」をも描いていて、しっかりロマン・ポランスキーにも関わりのある映画だった。
映画の時制はまさに1969年。映画の中でも山のように60年代後期のポップス、ロックが流れるわけで、これは大変だ。わたしの良く聴いていた音楽だらけなのだ。映画の中でチラッと映るLPでわたしの持っていたものもあったし、映画の中でシャロン・テート(マーゴット・ロビー)が映画館で観る自分の出演作『サイレンサー 破壊部隊』なんか、わたしもDVDを持っているのだ。
ディカプリオは50年代から西部劇映画、そしてテレビドラマシリーズで人気を博したスター。ブラッド・ピットは、そんなディカプリオの専属のスタントマン(兼運転手)というか、ふたりは堅い友情で結ばれている。しかし時代は1969年(映画はその2月から始まる)、西部劇もテレビドラマも斜陽である。映画の冒頭はディカプリオがバーでアル・パチーノに出会い、「イタリアでウェスタンを撮るというから出てみたらどうだ」と勧められる。しかしディカプリオ自身も落ち目というか、若干アル中気味だし、せっかく悪役で出演した映画でも本番でセリフをつっかえたりしてしまう。そんな自分を情けなく思い、ついつい涙目になってしまうディカプリオがかわいい。
で、それでもディカプリオはなかなかの邸宅に住んでいるわけだけれども、その邸宅のとなりにロマン・ポランスキーとシャロン・テートの夫妻が引っ越してくる。「オレもポランスキーの映画に出るかも!」と舞い上がるディカプリオ。彼はけっきょくマカロニ・ウェスタンに何本か主演して潤うわけだけれども。
ブラッド・ピットはそれなりに悠々自適にやっているのだけれども、実はブルース・リーより強かったりする。
ポランスキーは海外に出ちゃっていて、留守番のシャロン・テートはハリウッドの街をひとり散策し、自分の出演作(ディーン・マーティン主演の『サイレンサー/破壊部隊』)を観たりする。
最後まで言っちゃうと、そんなディカプリオよりもブラピよりも、ブラピの飼っている犬のブランディの方がずっと強力だったし、「火炎放射器」の威力は強烈であった。
以上は大まかなあらすじだけれども、そのマンソン・ファミリーのヒッピーたちこそが「最大の悪役」なわけだけれども、彼ら、彼女らが共同で住んでいるのが、ハリウッド郊外の元西部劇ロケに使われていたオープンセットで、大きなストーリーとしては、ディカプリオとブラッド・ピットというかつての西部劇映画のスターらは、リアルに西部劇的な展開で「悪役」をやっつけるという次第。
この映画が面白いのは、まさに「西部劇映画、連続テレビドラマの衰退」、そして「マカロニ・ウェスタンの台頭」という現実、リアルな世界を背景にして、ディカプリオとブラッド・ピットという、「現実には存在しなかった」俳優とスタントマンとを狂言回しに、これもリアルなヒッピー文化の隆盛を描きながら、マンソンファミリーのあの事件までを描く力技の妙、だろうか。
いろいろと、「そんなシーン、いらないだろ?」というのもあるのだけれども(ブラッド・ピットがわざわざ上半身裸になるとか)、タランティーノにとっても体験のあるだろう、記憶もいっぱいあるだろう(あ、タランティーノはまだ6歳だったか!)1969年を、虚実ないまぜにしながら「こ~んな時代だったぜ!」と、終盤の展開の強烈さ、痛快さでまさに「うっちゃってみせてくれた」作品。ああ、シャロン・テートが殺されなくってよかった!
シャロン・テートが自宅で聴いていたレコードとして、当時人気のあった「ポール・リヴィアとレイダーズ」の曲が3曲ぐらいかかって、レコードジャケットも写されてちょっと「別待遇」というところなのだけれども、実はこの「ポール・リヴィアとレイダーズ」は現実の「シャロン・テート事件」とは関連浅からぬグループではある。
このグループのプロデューサーはテリー・メルチャーという人物で、実はドリス・デイの息子でもあるのだけれども、この人物がマンソン・ファミリーのチャールズ・マンソンとの契約話を反故にして、そのことを恨んだファミリーの連中がテリー・メルチャーの住まいを襲うのだが、実はテリー・メルチャーはすでに転居していて、そのときそこに住んでいたのがロマン・ポランスキーとシャロン・テートの夫婦だったのだ(ロマン・ポランスキーはこのとき『マクベス』撮影のためイギリス滞在中だった)。
(最後に)ブラッド・ピットの愛犬のブランディの活躍ぶりも爽快で、これはカンヌなら「パルム・ドッグ賞」だよな、と思っていたら、じっさいにその「パルム・ドッグ賞」を受賞していたらしい。