ワニ狩り連絡帳2

前世のワニ狩りの楽しい思い出。ネコのニェネントとの暮らし。

『イングロリアス・バスターズ』(2009) クエンティン・タランティーノ:脚本・監督

 タランティーノ監督作の順番からいうと、昨日観た『パルプ・フィクション』の次は『キル・ビル』2部作なのだけれども、「U-NEXT」にはアップされてなく、その次の『デス・プルーフinグラインドハウス』は「観なくってもいいや」と思ったもので、この『イングロリアス・バスターズ』を観た。

 この作品はアメリカ・ドイツの共作で、じっさいにフランスとドイツで撮影されていて、アメリカ、イギリス、フランス、ドイツ、オーストリアなどの俳優の出演する「国際的」な作品(セリフも英語、フランス語、ドイツ語、ちょびっとイタリア語などが入り乱れる)ではあるが、やっぱりいちど観てしまうと、この映画はもうナチス親衛隊(「ユダヤ・ハンター」と呼ばれた)ハンス・ランダを演じたクリストフ・ヴァルツオーストリア生まれ)なくして考えることは出来ない。
 ニコニコと笑みを浮かべながらも、平然な顔をして残虐な言葉を吐き、「人間味」と「冷酷さ」とのアンビヴァレントな演技を見せてくれるクリストフ・ヴァルツ、素晴らしい!
 彼はこの映画でカンヌ国際映画祭の男優賞、アカデミー賞助演男優賞など数多くの賞を受賞し、以後ポランスキーの『おとなのけんか』とか『007』シリーズの悪役とか、国際的に活躍する俳優になってしまうわけだけれども、当初タランティーノはこのハンス・ランダ役にレオナルド・ディカプリオを考えていたらしい。それがどうして当時国際的にはほぼ無名だったクリストフ・ヴァルツになったのかよくわからないけれども、もうわたしには『イングロリアス・バスターズ』といえば、クリストフ・ヴァルツなのだ。
 ちなみに、彼はアカデミー賞では「助演男優賞」を受賞しているのだが、ではこの『イングロリアス・バスターズ』の主演男優は誰なのか?と考えると、「出番も多くないブラッド・ピットでいいのかよ?」とか思ってしまう。わたしはこの映画の主役はクリストフ・ヴァルツ演じる「ハンス・ランダ」だろうと思っている。

 映画はナチス・ドイツ占領下のフランスを舞台に進行し、まずは1941年のフランス郊外、「ユダヤ・ハンター」のハンス・ランダは行方不明のユダヤ人一家を捜索し、あるフランス人酪農家がその一家をかくまっていると見当を付け、その酪農家を訪問するところから始まる。ハンスの巧妙ないやったらしい追及を逃れ得ないと思ったその酪農家は「床下に一家が隠れていること」を告白し、ユダヤ人一家は銃殺されるのだが、ただ一人、ショシャナ・ドレフュス(メラニー・ロラン)だけは逃げおおせる。

 時代は1944年になり、米軍陸軍中尉のアルド・レイン(ブラッド・ピット)は、ユダヤアメリカ人兵士8人から成る「バスターズ」を組織し、ゲリラ的にドイツ軍に残虐な攻撃を続けていた。
 一方、ショシャナ・ドレフュスはエマニュエルと名を変え、亡くなった叔父夫妻からパリの映画館経営を引き継いでいる。イタリア戦線で活躍したドイツ軍兵士フレドリックがエマニュエルを見かけて惹かれ、エマニュエルの映画館でフレデリックが主演して彼の活躍を描いた映画『国家の誇り』を上映しようとする。
 その話は大きくなり、パリでのその映画のプレミア上映がショシャナの映画館で開催されることになり、ゲッペルズらドイツ高官も出席することになる(最終的にはヒトラー総統も出席する)。
 ショシャナはこれを「最大のチャンス」と、映画館に観客を閉じ込め、在庫している大量の可燃性フィルムに火をつけて全員を焼死させようと計画する。

 一方、そのプレミア上映会のことはアルド・レインら「バスターズ」の耳にも届いており、ドイツ女優で実はイギリスのスパイであるブリジット・フォン・ハマーシュマルク(ダイアン・クルーガー)と接触を取り、プレミア会場に忍び込む計画を立てる。
 プレミア上映会直前にハンス・ランダがまた登場し、ブリジットがスパイであることを暴いて彼女を殺害し、プレミア会場でイタリア人に扮していたアルド・レイン他1名を拉致する。しかし会場にはまだ2名の「バスターズ」が潜入してはいる。
 一方、エマニュエルは着々と自分の計画を押し進めるのだが、彼女に横恋慕している上映映画の主役のフレデリックが上映室にやって来て、エマニュエルはフレデリックを銃で撃つのだが、フレデリックは絶命間際にエマニュエルを撃つ。しかしエマニュエルの計画はエマニュエルの恋人のマルセルが引き継いで遂行し、観客が観客席から出られないように施錠し、スクリーン裏の可燃フィルムに火を放つのだった。
 時を同じくして「バスターズ」の2人も隠し持った機関銃を客席に乱射、ヒトラーもゲッペルズも皆殺しにするのだった。

 一方、ハンス・ランダは、アルド・レインらを解放する見返りに、「映画館炎上」は自分の手柄であるとして、自らアメリカ~イギリス側に寝返ることを提案するのだった。さてさて‥‥。

 「史実」を無視して、この映画館炎上~爆破でヒトラーもゲッペルズも死亡することにされていて「びっくり!」なのだが、まあこの時期はナチス・ドイツももう「風前のともしび」だったわけだから、「デタラメではないか!」と腹を立てることもないだろう。
 ただ、「映画」としてナチスによる「ホロコースト」や「ユダヤ人虐殺」は観客皆が知っているとした展開で、そういうところで「バスターズ」らのドイツ軍兵士への「頭皮を剥ぐ」などという残虐行為は、この映画の描写内でみると「残虐すぎる」ではないか、という反応も生みそうだ(じっさい、そういう反応はあったらしい)。

 そういうことを抜かして観て、けっこうこの種の「戦争映画」では過去には出番の少なかったであろう「女性」が、しっかりとフィーチャーされていたし、さらに考えてみればエマニュエルをサポートするエマニュエルの恋人のマルセルは「アフリカ系」だったわけで、そういう「気配り」も爽快だった。映画館の2階席への階段での演出はヒッチコックを思い出させられたし、「娯楽映画」としてめっちゃ面白い作品ではあった。