ワニ狩り連絡帳2

前世のワニ狩りの楽しい思い出。ネコのニェネントとの暮らし。

『007 スペクター』(2015) サム・メンデス:監督

 ダニエル・クレイグジェームズ・ボンドを演じる「007」シリーズの前作、『スカイフォール』はいちおう観ていると思うのだが、まるで記憶に残っていない。だから『スカイフォール』を先に観ようかと思ったのだけれども、この『スペクター』を先に観た。『スカイフォール』につづいて、監督はサム・メンデスなのだった。

 かつての「007」シリーズというのは一話完結で、シリーズ相互間のつながりというのはそこまでになかったと思うのだけれども、このダニエル・クレイグ版の「007」シリーズでは、そのさいしょの『007/カジノ・ロワイヤル』からずっと、そのストーリーはつながっているようであった。そういう意味では先に『007 スカイフォール』を観た方がよかったかというか、『007/カジノ・ロワイヤル』までさかのぼって観るべきだったか。

 映画の冒頭はメキシコのカーニヴァルから始まるのだけれども、ここでの「ワンシーン・ワンカット」のカメラにはびっくり!ではあった。まるでアルフォンス・キュアロンの『トウモロー・ワールド』ではないかというところで、高いところからの群衆のクレーン撮影からそのカメラが降下し、仮面をつけたボンドにフィットしたカメラは群衆のあいだを切り抜けながらボンドを追い、ある建物の階段をボンドを追ったまま昇り、エレヴェーターにもいっしょに乗る。上の階の一部屋からボンドが外に飛び出し、屋上をつたって向かいのビルの窓の向こうの人物に銃の狙いをつける。ここまでが「ワンシーン・ワンカット」である。観ていてもおったまげるが、まあ「ココとココで切り貼りしたな」という箇所は想像することはできる。『トウモロー・ワールド』とおんなじである。
 この作品の撮影監督はオランダのホイテ・ヴァン・ホイテマという人で、あの『ぼくのエリ 200歳の少女』の撮影で注目され、『裏切りのサーカス』や『ダンケルク』などで撮影監督をつとめているという。

 さて、近年の「007」シリーズでは、仇の悪役にヨーロッパで活躍する個性派の俳優を充てるケースが多いようで(このことは「ボンド・ガール」でも言えることか)、過去にマッツ・ミケルセンだとかマチュー・アマルリックらが悪役を演じていたけれども、この『007 スペクター』ではクリストフ・ヴァルツが登場する。
 これは先に書いておくと、彼はその終盤で左目のところに縦に大きな傷を負うのだが、それはかつての007映画で「スペクター」の首領を演じたドナルド・プレザンスのことを彷彿とさせられる。猫を飼っていることも同じである。調べると、それはショーン・コネリー時代の『007は二度死ぬ』のことで、その『007は二度死ぬ』のストーリーなどわたしはまるで記憶していないのだけれども、読んでみるとこの『007 スペクター』にかぶさる部分が少なくないようだ。

 それでこの作品、アクションシーンも散らばめられ、大掛かりな建物の爆破・崩壊シーンも3回ぐらいあるのだけれども、その作品の中での「散らばり方」が作品の求心力を失わせている印象があり、ラスボスのクリストフ・ヴァルツインパクトが弱まった感じがある。まあそれぞれのシークエンスを「大爆破」シーンで締めくくるという感じは、通してみると「またかよ」という感想は生むかもしれない。

 この作品の「ボンド・ガール」であるレア・セドゥはめっちゃ魅力的で、列車の中でタイトなドレスをまとってボンドの前に現れるシーンには、惚れ惚れしてしまったし、この映画の中での立ち位置も、単なるお飾りの「ボンド・ガール」というところを越えて、ストーリー展開の中心に位置する存在になっていた(次作にも同じ役で登場するらしい)。
 しかしその分、前半にちょこっと登場したモニカ・ベルッチが、それこそお飾り的な「ボンド・ガール」になってしまった感はある。大女優だというのにもったいないことだ。

 今回は「M」(レイフ・ファインズ)も「Q」(ベン・ウィショー)も、そして「マネーペニー」(ナオミ・ハリス)も活躍して、特にアクションもこなしてみせた「M」が、いかにもイギリス紳士らしくもコーモリ傘を持ち歩いていたのに好感度アップ。
 あと、わたしでも聞き取れるかんたんなセリフで、「それはないだろ?」という日本語字幕がついていたが、案の定日本語字幕は「あの人」だった。