ワニ狩り連絡帳2

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『アンドレイ・ルブリョフ』(1967) アンドレイ・タルコフスキー:監督

アンドレイ・ルブリョフ [DVD]

アンドレイ・ルブリョフ [DVD]

  • 発売日: 2005/12/22
  • メディア: DVD

 タルコフスキーの長編第2作で、わたしはこの映画を日本初公開のときに映画館で観ている。もちろんほとんど記憶していないが、最終エピソードのことだけは憶えている。

 アンドレイ・ルブリョフは、15世紀ロシアの聖像画(イコン)の著名な画家、修道士だけれども、この映画に描かれたほどに彼の生涯の記録が残っているとも思えず、おおかたはタルコフスキーによる創作なのだろう。
 時代はモスクワ大公国と呼ばれた国家の存在した時代なのだが、タタールによる侵略などを背景としながら、アンドレイ・ルブリョフのイコン画家としてのスタート、苦悩を描くのだが、タタールの侵略のときにタタール側のロシア人を殺めたことに悩み、自らに「沈黙の行」を課し、絵を描くことをやめてしまう。
 さいごに大公に鐘づくりを命じられた青年のありさまを見つづけていたアンドレイ・ルブリョフは、青年の努力と彼の告白を聴き、再び絵筆を取ることを決めるのである。

 1400年から1423年まで、全体が10個ぐらいのエピソードに分かれていて、それは決して連続した大きなストーリーを形成するものではない。しかしそこには、描くべき理想を追い求めながらも世間の動きに翻弄されて絵筆を折り、その後に再生する芸術家の姿を描いているだろう。

 いや、これはストーリー何がしよりも、この圧倒的な映像の力、演出の力を堪能する作品ではないだろうか。冒頭の「気球」のシーンから、思いがけないワンシーンワンショットの強烈なカメラの動きに目を奪われ、まあそれほどの長さのワンシーンではないのだけれども、「これ、どれだけの高さのクレーンを使って撮影したのだろう!」と目を見張る、地面から上へと上昇していく撮影が随所に見られるし、移動撮影は限りなく美しい。ロングショットで撮られた「群衆の動き」は、まるで動くブリューゲルの絵のようだ。風景も動物も、そして水も美しい!

 やはりエピソードの中で心に残るのは、最終エピソード(まあこのあとにアンドレイ・ルブリョフの作品を次々とカラーで見せて行くシーンがあるのだけれども)だろうと思う。これはすでに亡くなった名鋳物師の息子のボリスという青年が、大公から「鐘を造れるものはいないか」の呼びかけに「オレは父から<秘伝>を教わっているから出来る!」と答え、ファナティックな努力で鐘づくりに取り組むわけで、さいごに鐘が完成しての公開の場に大公も外国大使と臨席する。人々は「あの鐘は鳴らないんじゃないか」と話し合っているのだが、見事に美しい鐘の音が響く。そのときボリスは地面に崩れ落ち、彼を助け起こしたアンドレイ・ルブリョフに、「父は<秘伝>なんか教えてくれなかった!」と語る。
アンドレイ・ルブリョフは10年以上つづけた「沈黙の行」を捨て、「お前は鐘を造り、わたしはイコンを描くのだ」と語る。

 わたしは、このボリスを演じた青年のファナティックな演技には惹かれるものがあったのだが、あとでこの映画について検索してみると、タルコフスキーは、このボリス役の青年の演技には不満があるのだということだった。まあめっちゃ難しい役どころではあるだろうが、「そういうものなのか」と思うのだった。

 Wikipediaを読むと、この作品には186分の「原版」と205分の「完全版」があり、その他原版より短い編集版がいろいろと存在するようだ。しかし、わたしの観たDVDは174分の長さで、この版についてはWikipediaでは触れられていなかった。せめて、「原版」で観たかった気はする。