ワニ狩り連絡帳2

前世のワニ狩りの楽しい思い出。ネコのニェネントとの暮らし。

『水の中のナイフ』(1962) ロマン・ポランスキー:脚本・監督

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 『女と男のいる舗道』と同じ1962年に撮られた、ロマン・ポランスキー長編映画デビュー作。ポランスキーの母国ポーランドで撮られた映画だけれども、海外ではアカデミー外国語映画賞の候補になったり評価も高かったが、「東側」だったポーランドでは黙殺され、逆にヒロインのヌード・シーンがあったことを批判されたりする。
 これで次作からはポランスキーはイギリスで撮るようになり、以後彼自身のスキャンダルもあって、アメリカ~フランスと各地を移動することになる。

 この『水の中のナイフ』の脚本にはイエジー・スコリモフスキも協力しているが、「湖の上のヨット」に乗り込んだ男2人、女1人という、「密室ドラマ」に似た緊密な心理サスペンスではある。
 書いたように冒頭とラストの「車」のシーン以外は「ヨット」の中が基本で、その映画撮影にはまったく不向きな狭い空間にさまざまな工夫をこらし、その「狭さ」を感じさせない興味深い撮影を見せてくれている。

 週末の休暇で所有する湖のヨットへ向かう夫婦。夫は中年っぽいが、あとの話では「スポーツ記事」を書いているジャーナリストのようだ。妻は夫に比べるとずいぶんと若く、肉感的と言ってもいいんだろう。そんな二人は湖への道の途中にヒッチハイクする若者に出会い、夫はその若者を同行させ、3人でヨットに乗って湖に乗り出すのだ。
 夫は若者にヨットの操作を教えながらヨットを進める。風も凪ぎ、ヨットも落ち着いてからは3人で船室でゲームなどをやる。若者はちょっと立派な飛び出しナイフを持っていて、それで一人遊びもしているが、置き忘れたそのナイフを夫はガウンのポケットに入れてしまう。ナイフがないことに気づいた若者が夫と争い、湖に落ちてしまう。その前に若者は「泳げない」と聞いていたので、夫婦は湖に飛び込んで若者を探す。

 この先の展開を書いてしまってもいいのだけれども、「ネタバレ」っぽくもなってしまうので、このあたりでやめておきます。

 このあと、いったいなぜ夫は若者を招いていっしょにヨットに乗ったのか、その心理の分析などがあり、一方妻は若者に魅力を感じてもいただろう。そこで語られること、映画全体で描かれることは、共産主義国家でありながら裕福な夫婦の「頽廃ぶり」とも言えるわけで、ポーランド国内でこの作品が評価されなかったこともわかる気がする。
 実のところこの夫は「気の弱い」男でもあり、それは若者がいなくなったときに「殺してしまった」と動揺することにもあらわれているだろうが、そんな夫の目に、若者の持っていた「ナイフ」が一種の「力の象徴」として映ったのではないだろうか。

 音楽は全篇「モダン・ジャズ」が使われていい効果を出しているのだけれども、きっとポランスキーは先に『死刑台のエレベーター』を観ていたんじゃないだろうか。