ワニ狩り連絡帳2

前世のワニ狩りの楽しい思い出。ネコのニェネントとの暮らし。

『ジャンゴ 繋がれざる者』(2012) クエンティン・タランティーノ:脚本・監督

 かつて1960年代のイタリア製西部劇「マカロニ・ウェスタン」にまずは『続・荒野の用心棒』というのがあり、この映画の原題は「Django」だった。さらに続いて日本でも『情無用のジャンゴ』だとか『皆殺しのジャンゴ』『血斗のジャンゴ』などの「ジャンゴ」映画が公開された(内容的には無関係らしいが)。マカロニ・ウェスタンのファンでもあるタランティーノ監督は、特に『続・荒野の用心棒』を意識して、この『ジャンゴ 繋がれざる者』(原題「Django Unchained」)を製作したという(その『続・荒野の用心棒』で主演したフランコ・ネロは、この作品にもちょっと出演している)。

 タランティーノ監督はこの作品を、それまでのアメリカ製西部劇で描かれることのほとんどなかった「奴隷問題」を主題とした作品とし、主人公は解放された奴隷で、ある屋敷で奴隷にされている自分の妻を奪還するというストーリーになった。
 主人公のジャンゴはジェイミー・フォックスが演じ、その妻のブルームヒルダはケリー・ワシントン、ブルームヒルダの所有者である大農園主のカルヴィン・キャンディはレオナルド・ディカプリオが演じた。
 また、『イングロリアス・バスターズ』で強い印象を残したクリストフ・ヴァルツは、奴隷だったジャンゴを解放して共に「賞金稼ぎ」活動をするドイツ人医師、キング・シュルツの役で出演しているが、おそらくタランティーノは最初からクリストフ・ヴァルツの出演を考え、脚本も彼を想定した「アテ書き」ではないかと想像できる。

 この作品の評価は高く、『パルプ・フィクション』に続いて「アカデミー脚本賞」を受賞、クリストフ・ヴァルツもまた、『イングロリアス・バスターズ』に続いて「アカデミー助演男優賞」を受賞している。

 時代設定は南北戦争直前の時代。ストーリーは見事に「起承転結」展開になっていて、まず「起」では賞金稼ぎ稼業のキング・シュルツが、追っている犯罪人の顔を知っているという奴隷のジャンゴを探し出し、彼を解放する。
 「承」で、ジャンゴの手助けを一時的に求めただけのつもりだったシュルツは、ジャンゴには今だどこかで奴隷になっている妻がいると知り、その妻の名がゲルマン神話の「ジークフリート伝説」のヒロイン、ブルームヒルダであることを知り、ジャンゴが妻を見つけ出す手助けをすることにする。同時にジャンゴに銃さばきを教え、2人で「賞金稼ぎ」を行うこととなる。
 「転」でついに、ブルームヒルダはカルヴィン・キャンディの農園にいることがわかり、作戦を練ってカルヴィン・キャンディの屋敷を訪れる。しかしジャンゴがブルームヒルダと夫婦であることがばれ、シュルツはすぐにカルヴィンを射殺するが彼もまたすぐに射殺され、ジャンゴは捕獲され「奴隷」として鉱山に売られることになる。
 「結」。鉱山に運ばれるジャンゴは、途中で運び屋らを騙して彼らを殺して逃亡。妻を取り戻すためにカルヴィンの農園へと戻るのであった。

 それまでの「西部劇」とちがって、アフリカ系の男性が「主人公」として縦横無比の活躍を見せるのだが、その前提として、人種的偏見を持たないドイツ人が彼をパートナーとするという展開が斬新。
 そのドイツ人賞金稼ぎのクリストフ・ヴァルツが、『イングロリアス・バスターズ』に引き続いて飄々とした演技を見せて楽しいのだが、そんな彼が、レオナルド・ディカプリオのねちねちとした議論と対峙する場面には目が離せない。
 また、アフリカ系の出自でありながら同じアフリカ系のジャンゴやブルームヒルダを敵視し、主人であるカルヴィンに心底から仕えるサミュエル・L・ジャクソンの存在が、この作品を単に「人種間の対立」を越えた「支配者~被支配者」の問題も垣間見せ、奥深いものにしていたかと思う。

 「最後にはヒーローが勝つ」という「西部劇」の定式を守りながらも、「アフリカ系のヒーロー」という新しい作劇を見せてくれた作品として、やはり非常に面白い作品ではあった。ヒッチコック作品みたいに、踊るジャンゴとブルームヒルダのまわりをグルグル回るカメラも印象的。わたし的には、劇中でJim Croceの「I Got a Name」が使われていたこともうれしかった。