ワニ狩り連絡帳2

前世のワニ狩りの楽しい思い出。ネコのニェネントとの暮らし。

『わが谷は緑なりき』(1941) ジョン・フォード:監督

 舞台はウェールズで、ある炭鉱町で暮らす大所帯の家族の物語。末の男の子が50年のちに町を去るとき、過去を追想するという構成になっている。家族は父を含めて男性は全員炭鉱で働く。まだ幼い語り手のヒューも、学校を出たあとは炭鉱で働く。
 評判になった原作の小説があるようで、ジョン・フォードにとっては『怒りの葡萄』や『タバコ・ロード』にひきつぎ、「原作のある家族もの」というジャンルを形成するものだろうか。このあと戦火が拡大し、ジョン・フォードは戦争の記録映画などを撮るけれど、戦後は西部劇を量産するようになる。

 ジョン・フォードのことだから、映画の中で「歌」が歌われることだろう、しかもウェールズが舞台だから、ウェールズのトラディショナル・ソングが聴けるのかと期待したが、たしかに炭鉱夫たちが仕事に出るときに列をなし、歌うたう場面などあるのだけれども、ちょっとわたしの期待したウェールズ・ソングではなかったかな?

 観始めて、「これは善人家族の善意あふれる物語なのだろうか」と思って、ちょっとパスしたい気分にもなったのだけれども、『怒りの葡萄』ほど辛口ではないけれど、やはり社会問題、「悪意」の問題などにふれて、さすがにジョン・フォードだった。
 しかもやはり「映画」としての技術の卓越さ、美術の美しさをたっぷりと堪能できる映画だ。室内は皆すぐれた舞台美術を思わせられるし、野の光景もまた、単に「自然」の光景というを越えて輝いている。炭鉱町がまた、坂をのぼる道に家が並ぶ景色で、これはロケセットでつくられたものだろうが、すばらしい! 冒頭の「現在」のショットから、カメラが移動して「過去」の追想へと移り、しばらくのナレーション付きからだんだんにドラマに入って行く構成も見事。

 ジョン・フォードの「家族もの」作品にはみな、「肝っ玉母さん」とでもいえるような母親が登場するのだけれども、この作品でもまさに「家族を束ねる」お母さんが登場する。
 少年ヒューを演じたのは、若き日のロディ・マクドウォールなのだった。