ワニ狩り連絡帳2

前世のワニ狩りの楽しい思い出。ネコのニェネントとの暮らし。

『ロング・ライダーズ』(1980) ウォルター・ヒル:監督

 この映画はそもそも、この映画にも出演しているジェームズ・キーチとステイシー・キーチの兄弟がテレビ映画『ライト兄弟』に出演したことから、「ジェームズ=ヤンガー・ギャング団」をまた兄弟でやろうと考えて戯曲を書き、まずはオフ・ブロードウェイの舞台で上演したことから始まる。その後二人は戯曲を映画の脚本に書き直し、映画化への道を探ることになる。
 ジェームズ・キーチがテレビ映画でジョン・キャラダインと共演したときに、この脚本の話をするとジョン・キャラダインも乗り気になり、「それだったらオレの兄弟のキース・キャラダインロバート・キャラダインも呼んで、ヤンガー3兄弟は自分たちキャラダイン兄弟で演じたい」となる。「ならばジェームズ=ヤンガー・ギャング団に参加したミラー兄弟もじっさいの兄弟に演じてもらおう」ということで、ランディとデニスのクエイド兄弟も呼ぼうと話が拡がる。

 この時点で映画化の話はまったく進んでいなかったのだが、話をユナイテッド・アーティストに持ち込み、ウォルター・ヒルが監督を引き受けることになった。
 ウォルター・ヒルは映画の製作中にライ・クーダーのレコードを聴き、「映画に求めていた音がここにある」と思い、映画の全篇でライ・クーダーの音楽をフィーチャーすることになり、彼の演奏によるトラディショナルなカントリー・ミュージック、そして彼の自作曲が使われた。おそらくはこの映画こそ、その後多くの映画と関わっているライ・クーダーが映画音楽を担当した最初の作品ではないかと思う。パブなどでのミュージシャンの演奏シーンを含め、実に素晴らしい音楽の数々を堪能でき、音楽を楽しむためだけにこの映画を観直してみたくもなる(じっさいにレコードも出しているキース・キャラダインの歌を聴くこともできる)。
 映画化が決まったあと、ジェシー・ジェームズを暗殺したフォード兄弟をボー・ブリッジスジェフ・ブリッジスが演じるという話もあったらしいのだけど、スケジュールを合わせることが出来なかったのだった。

 ストーリーはジェシー・ジェームズの死と「ジェームズ=ヤンガー・ギャング団」の消滅を描き、「西部のアウトローの時代の終焉」という作品になった。そういうところはペキンパーの『ワイルドバンチ』に似ているのかもしれないし、さらにこの映画でウォルター・ヒルがスローモーションを多用したことも、サム・ペキンパーと比較される原因にもなったのだろう。
 わたしはもう今はサム・ペキンパーのことを忘れてしまっているので、この作品でのスローモーションをペキンパーと比較してあれこれ語ることは出来ないけれども、私見ではこの作品でのスローモーションは「スタイリッシュさ」「美しさ」を追い求めたものだという気がする。だいたい冒頭のシーンでの、ギャング団がお揃いのグレーのダスターコートをなびかせて馬を走らせるスローモーションのシーンはカッコよく、これは『レザボア・ドッグス』の冒頭で一団が黒のスーツ姿で歩を進めるスローモーションを思い出し、タランティーノはペキンパーよりもこの映画の影響を受けたのではないのかと思うぐらいだった。

 映画にはジェームズ兄弟の母や妻、そして子供の住む住まいも登場し、その家の周辺の緑豊かな田園風景といったものも、美しくも印象に残ったのだが、彼らは「ギャング団」として強盗をはたらくとき以外は家族を大切にする生活者のように描かれていた。一方のヤンガー兄弟らはけっこうやさぐれた生活を送っている感じではあったが、それでも相手が娼婦であっても女性を愛する姿は描かれていたか。

 映画のクライマックスは「ジェームズ=ヤンガー・ギャング団」にとって最後のヤマ場になった北方のノースフィールドの銀行を襲撃して失敗し、結局逃走することになるシークエンスなのだが、襲撃に失敗して町を出ようとするときに道をふさがれて退路を失い、ついには道沿いのガラス張りの建物のガラスを乗馬のままぶち割って乗り越えて行くシーンのスローモーションは、もはや忘れることの出来ない、哀しみをにじませた敗北の「美しさ」だったと思う。
 このあとも、大ケガをしたヤンガー兄弟と別れたジェームズ兄弟が、川の急流を馬と共に渡る姿にも胸が打たれるものがあった(ガラス破りといい急流渡りといい、この映画に出た馬たちはエラい目に遭わされたことだなあ)。

 ラストはノースフィールドでの失敗から時を置いて、再び強盗稼業に戻ろうとするジェシー・ジェームズが、実は彼らが裏切る気だとは知らずにフォード兄弟を呼び寄せ、自宅でフォード兄弟に後ろから撃たれて死に、残ったフランク・ジェームズがジェシーの遺体を埋葬するために家に連れ帰ることを条件に自首するまでで終わる。

 このジェシー・ジェームズが撃たれる場面は、後の映画『ジェシー・ジェームズの暗殺』(ケイシー・アフレックが出演していて、好きな映画だった)での暗殺場面と同じだったことを思い出し、「ジェシー・ジェームズの死」というのは伝説として残っているのだなあと思わせられた。

 実は自首した兄のフランクは(なぜか知らないが)裁判で無罪となり、晩年はやはり逮捕され刑期を終えて生きながらえて出所していたコール・ヤンガーと共に、あのバッファロー・ビルの主宰する「ワイルド・ウェスト・ショー」に出演していたという。

(わたしはこの映画を「Amazon Prime Video」の「MGMチャンネル」で観たのだけれども、残念なことに「吹き替え」なのだった。しかも、冒頭と中ほどの3ヶ所ほど、その吹き替えが消えてしまって元の英語音声になってしまったりしたのだった。まあこの映画を観る人も少ないだろうから放置してあるのだろうが、ちょっと怒った。
 あと、ジェシー・ジェームズを演じていたジェームズ・キーチがなかなかにカッコよくって見惚れてしまったのだけれども、この人は日本では出演作もあまり知られていないみたいだけれども、映画のプロデューサー、ドキュメンタリー作品の監督としても活動をつづけているみたいだ。)