「嘘をつく男」に引き続いてチェコスロヴァキアが製作に協力し、さらに撮影地となったチュニジアとフランスの3国での共同製作。そして、この作品がロブ=グリエにとって初めての「カラー映画」だったということ。この映画の魅力のひとつは、そのチュニジアの青い空と建物の白い壁の美しさで、このこと自体が一枚の絵画作品に描かれ、映画展開の大きなポイントになっている。
どうやらこの作品の撮影にあたり、ロブ=グリエは先に脚本を準備することなく、つまり即興演出にたよっての撮影になったらしい。それで出演者はそんな即興演出に対応させやすい無名の俳優を多く使ったのだということだが、それだけ若い俳優が多く顔を出し、1968年以降のユース・カルチャーを描いたとも思えるこの作品で、良い効果になっていたのではないかと思う。
昨日観た「快楽の漸進的横滑り」のように、主人公はヴィオレットという<女性>(演じるのはカトリーヌ・ジュールダンという若い女優さんで、けっこう魅力的である)。映画は彼女の(おそらくは<想像>の中の)冒険譚であり、そんな1970年的な空気の中での、新しい「不思議の国のアリス」という見方は有効だろうと思う。
「囚われの美女」でマグリット作品へのリンクがあったように、ここでもさまざまな美術作品とのリンクがある。冒頭のカフェはモンドリアンだし、デュシャンの「階段を下りる裸体」を<実写>でやってみました、みたいなシーンもある。そもそもがヴィオレットが<想像世界>としてのチュニジアへ足を踏み入れる契機となるのも、先に書いたような一枚の油彩画からである。
ディシャメン(どうしてもマルセル・デュシャンを思い起こさせられる)という男が、その<想像世界>への入り口を開くわけでもあるけれども、ラスト近くにこのディシャメンと相似形の男が登場し、ディシャメンと同じような死にざまを見せることで、ロブ=グリエ映画おなじみの「ふりだしに戻る」展開をみせてくれる。
‥‥これで、今回の6本の作品をすべて観たわけだけれども、またもういちど、全作品を観直してみたいという気もちが強い。きっとDVDとかで発売されることを期待している。