1960年代後半、日本の映画産業にも衰退の影が忍び寄り、ゴジラシリーズも年々観客動員数は減少しつづけた。東宝はけっこうな製作費のかかる怪獣映画はもういいかげんにしたいと考え、そのラストのお祭りとして、ゴジラをはじめ今までに登場した怪獣らをみんな出演させる「オールスター怪獣映画」を撮ることにし、それでおしまいにしようとした。
上映の際もこの作品単独でのプッシュはやめ、児童向けアニメと過去作『海底軍艦』の短縮版とのセットで公開し、より「子供向け」という姿勢をはっきりさせた。
「もうゴジラ映画もこれで終わり」という思いからか、監督に本多猪四郎が復帰し、彼は脚本にも加わった。音楽も伊福部昭となり、この作品の「怪獣総進撃マーチ」はよく知られることになった。
登場する怪獣はゴジラを含めて11頭。もう出演する人間よりも怪獣の方が多いんじゃないか、って感じだが、「ゴジラ映画」には出ていなかった怪獣、バランやマンダ、バラゴン、ゴロザウルスなども登場した。しかし観ていると、バランなどは怪獣皆が勢ぞろいしたときに0.5秒ぐらい、そのあとも0.5秒ぐらい姿が見えただけで、映画の中では何にもやっていないのだ(バラゴンというヤツも、ほとんど出てこなかったと思うが)。
今回はまた、アイディアに詰まると登場してくるという、おなじみの「宇宙人」(今回は「キラアク星人」というのだ)があらわれて、前の「X星人」と同じく怪獣たちをコントロールするのであった。そういうのでは前の『怪獣大戦争』の拡大版、という感じではある。
ストーリーは「20世紀の終わり」という設定で、そのときには地球上のすべての怪獣たちは国連の科学委員会によって集められ、小笠原諸島近海の「怪獣ランド」で飼育(?)、研究されているのだった(バリアーに囲まれていて怪獣たちは脱出出来ないらしい)。このあたり、アイディア的にはハリウッドの『ジュラシック・パーク』の先取りではないだろうか。
ところがあるとき、怪獣らはバリアーを突破して世界中の都市を破壊し始める。ゴジラはニューヨーク、ラドンはモスクワ、モスラは北京、マンダはロンドン、そしてゴロザウルスはパリを攻撃するのだ。
う~ん、久々の怪獣たちの都市破壊。うっぷんのたまっていた怪獣たちも大暴れである。この時期、新作も古い作品の怪獣登場場面の使いまわしが多くなるけれども、このシーンは新しく撮ったものが多い。
この「怪獣総攻撃」、「キラアク星人」らが富士山ろくに地下拠点を築くための目くらましだったようだが、月探索へと向かう途中だった国連科学委員会の山辺(久保明)らが急きょ「怪獣ランド」の管理センターへ行くと、職員ら(田崎潤、土屋嘉男、小林夕岐子)はキラアク星人によってマインドコントロールされていたのだった。山辺らの前にあらわれたキラアク星人ら(愛京子ら)は、人類に「降伏か滅亡か」を迫るのだった。キラアク星人らは次にゴジラたちに東京攻撃を実行させるが、山辺らは月にあるキラアク星人の前哨基地を破壊、怪獣と人々のマインドコントロールを解くのだった。
「それでは」とキラアク星人は「宇宙人御用達」のキングギドラを地球に呼び寄せる。しかしゴジラたちは一致団結してキングギドラに立ち向かい、ついにはキングギドラはいつものように宇宙に逃げる暇もなく、ボロボロにされて死んでしまうのではあった(このあたりのキングギドラ撲滅シーン、ちょっとばかり残酷描写だと思う)。
敗色濃いキラアク星人はさいごに「ファイアドラゴン」なる火の玉のようなもので地球を攻撃するが、山辺らによって破壊されてしまう。「低温にさらされると鉱物になってしまう」という弱点を持つキラアク星人らは人類の攻撃で滅び、ゴジラたち怪獣一行も「怪獣ランド」に戻って、以後平和に暮らすのであった。チャンチャン。
まあ登場する怪獣たちが多いのだけれども、ほとんど何もやらない怪獣も多い中、いちばんがんばったのはアンギラスだったような印象。やられても踏みつけられても立ち向かう姿は感動的ですらあり、「敢闘賞」は間違いない。ついでに「殊勲賞」もあげよう。やはり「優勝」はゴジラを外すわけにはいかないだろうが、必殺の「飛び蹴り」をくらわせたゴロザウルスに「技能賞」を贈ろう。
もう新鮮味のない宇宙人の登場とか、数が多いばかりの怪獣たち、ほとんど空っぽの人間パートなど、いよいよ面白味もなくなってきたのだが、アメリカではテレビで何度も放映されてけっこう人気があったようで、この作品のアメリカでのタイトル「Destroy All Monsters」を名乗るロックバンドも登場した(わたしもこのバンドの曲、むかし聴いたことがあった)。
もはや「子供向け映画」になっていた「ゴジラシリーズ」、日本では子供たちから「本物の怪獣を見たい」という手紙が円谷特撮監督のもとなどに多数届き、ついに東宝は新1年生100人を富士山ろくのセットに招待し、子供たちはすべての怪獣たちと会うことが出来たのだった。いい写真だ。
個人的に、「国連科学委員会」の職員役で出演していた「小林夕岐子」という女優さんが目にとまり、端正な顔立ちの美しい女優さあんだなあ、などと思ってしまった。この方、病気で20代で引退してしまわれ、出演作も少ないのだけれども、テレビの『ウルトラセブン』の第9話に出演した彼女は観る人に強烈な印象を残し、今でも「伝説」なのだという。1970年には『幽霊屋敷の恐怖 血を吸う人形』という作品に出演していて、これ、すっごく面白そう。「有料視聴」にはなるが、今度観てみようかしらん、とは思うのだった。