ワニ狩り連絡帳2

前世のワニ狩りの楽しい思い出。ネコのニェネントとの暮らし。

『her/世界でひとつの彼女』(2013) スパイク・ジョーンズ:脚本・監督

her/世界でひとつの彼女 [Blu-ray]

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  • 発売日: 2015/07/08
  • メディア: Blu-ray

 わたしはまたもや人名の混同をしていて、この映画の監督のスパイク・ジョーンズと『ドゥ・ザ・ライト・シング』のスパイク・リーとを混同していて、この作品もアフリカ系の人たちを描いた作品だと思い込んでしまっていた。ところがどうもそうじゃないらしいとわかり、スパイク・ジョーンズという監督はあの『マルコヴィッチの穴』を撮った人だとわかった。わたしはボケである。

 この作品は「近未来SF」というか、「将来、コンピューターが人の心を理解し、自らも心を持つようになったら?」という発想から、人の「恋愛」ということがらを、その精神面、肉体面から掘り下げた作品だろうか。言ってみれば「外世界」へのSFではなく、「内世界」へのSFだろうか。

 主人公のセオドア(ホアキン・フェニックス)は、妻(ルーニー・マーラ)との別居、離婚問題の解決で心も沈んでいたのだが、コンピューターの人工知能型OSを手に入れ、そのOSを「女性」と設定し、サマンサと名付ける~いや、これはOSが自分で自分の名まえを決めたのだったか?(声:スカーレット・ヨハンソン
 単に「有能な秘書役」ということを越えて創造性に富み、感情の起伏も人間的に魅力的なサマンサに、セオドアは恋人に対するような感情を抱くようになるし、サマンサの側もセオドアに思いを重ねる。ついには夜中の会話からヴァーチャル・セックスへの流れへとなるのだが、サマンサは自分にフィジカルな身体がないことから、セオドアとサマンサの関係を理解する「代理」のじっさいの女性を探し出し、セオドアとその女性とのリアルなセックスを望む(サマンサはセオドアのコンピュータの中だけの「閉ざされた存在」ではなく、つまりネット空間とかで「外」ともつながっているようだ)。セオドアは試みようとはするが、やはりさいごには拒否して彼女を追い返す。
 セオドアは妻との離婚を成立させるが、妻にサマンサとのことを告げると「そんなのはリアルではない」と否定される。それでもサマンサとセオドアの仲はなんとか修復されるが、実はサマンサは「進化」をつづけていて、ちょっとばかしセオドアのついて行ける次元でもなくなってくるし、今ではセオドアのほかに何百人とも付き合っていると告白したりする。
 ついにはサマンサは同じグループのOSと共に別次元に行ってしまうというか、セオドアの前から姿を消す。そのことで、セオドアはまた「リアル」な人たちとの関係を取り戻すのかもしれない。

 スカーレット・ヨハンソンの感情の起伏も豊かで、時にエロティックな声がこの作品にリアリティーを与えているだろうし、「お互いを大切に思う」気もちという、そもそもの「恋愛」というものの本質について考えさせてくれるところはたしかにあると思う。ただ、それがヴァーチャル・セックスへと発展(?)すると、「それって、一時代前のテレフォン・セックスじゃん?」みたいなことになってしまう。これもまた、「恋愛に肉体は必要なのか?」「恋愛は肉体を越えられるのか?」という思索に誘われたりもするけれども、何も通俗的に「プラトニック・ラヴ」みたいなことを語らなくても、もちろん恋愛は肉体を超越できるし、ある面で超越しなければならないのだ。そういう意味で、セオドアとサマンサはもちろん可能でありえたし、とちゅうで違う次元の問題でセオドアとサマンサとの関係を絶ち切ってしまったのは残念だと思う。

 その「違う次元の問題」だが、もちろん「サマンサ」が商品化されたOSなのだとしたら、オーナーを放ったらかしにして自己進化をやらかしてしまうというのは、その時点で「欠陥商品」ではあるだろう。まあ「欠陥」かどうかはさておいても、このことはコンピューターの「人工知能」の未来として考えうる問題ではあるだろうし、「超」スーパーコンピューターが実現すれば、ひょっとしたら未来的にありうることなのだろうかしらん。わたしは「あり得ない」とは思うが、一面でこれは「SF映画」だから。

 映画的にみて、セオドアのホアキン・フェニックススカーレット・ヨハンソンの声だけを相手にすることが多く、それもただ夜更けにベッドに寝ているセオドアの顔だけでみせていくシーンがいっぱいある。こういうシーンを飽きさせずにみせる演出は卓越しているだろう。ホアキン・フェニックスという俳優さんの良さって、わたしは今までよくわからないでいたのだけれども、今まで観た彼の出演作と、この作品のこととを合わせて考えたりすると、すっごい器用な俳優さんなのだなあと思った。
 それでわたしがこの映画でいっちばん好きなのは、ウクレレを伴奏にスカーレット・ヨハンソンが歌う「The Moon Song」のシーン。このシーンでは泣きました。
 そういえば、スカーレット・ヨハンソンには、全曲トム・ウェイツの曲のカヴァーというアルバムがリリースされていたっけ。買ってしまおうかな?