ワニ狩り連絡帳2

前世のワニ狩りの楽しい思い出。ネコのニェネントとの暮らし。

『ルイス・ウェイン 生涯愛した妻とネコ』 ウィル・シャープ:監督

  

 ルイス・ウェインは19世紀末から20世紀初頭に活動した、とにかくは「ネコの絵」で有名になったイギリスの画家。彼は晩年に統合失調症を患っていたとされ、わたしなどは、年代順に並べられた彼の描いたネコの絵から「統合失調症」の進行を読み取る例として彼の絵を見て記憶に残っていたのだが、とりわけその「統合失調症」がかなり進化したときの、まるで抽象的なタペストリーのような、サイケデリック絵画のように描かれたネコの絵の印象が強く、今でも記憶に残っていた。実はこの映画を観たいと思ったのも、そういう前提があっての上のことだった。

     

 この作品は、そんなルイス・ウェイン1860年生まれ)の1881年から1920年(1930年だったかな?)に至る生涯を描いた「伝記映画」だけれども、その原題は「The Electrical Life of Louis Wain」というものであった。
 この映画で観る限り、ルイス・ウェインは若い頃からかなりエキセントリックな性格で(絵を描くときに右手左手の両手を使って、すっごいスピードで描画する様子も描かれていた)、世界を「電気」から解明しようとも思っていた。映画の中でのちに彼は、「電気を通じてみれば、過去は未来に、そして未来は過去に通じるのだ」などと語っている。

 きょっと「かけ足」的に時代を駆け抜ける映画で、彼の人生のどこかにポイントを置いて演出するというよりも、その「全体像」を「通史」的に描き通そうとした映画のようにみえる。
 しかしそれでもポイントはやはり彼の妻との出会いと結婚生活、そして野良ネコだったピーターと名付けるネコといっしょに暮らし始め、大量のネコの絵を描きはじめることだろう。
 妻のエミリーはルイスの妹らの家庭教師としてウェイン家に来た人物で、ルイスよりも年上だったこともあり、年長の妹らからの反対の声は大きかった(ちなみにそのとき上流階級だったウェイン家で兄ルイスは5~6人の妹をかかえたたった一人の男で、父も亡くなっていて家族の長の立場ではあった)。映画に描かれたルイスと妻のエミリーとの関係は、短いながらも美しいものだった。
 さらに、当時「ペット」と呼ばれるほどに人気もなかった「ネコ」が、彼の描くネコの絵によってイギリス中で人気を得るようになり、のちにルイスはイギリスの「ナショナル・キャット・クラブ」の会長にもなるのである。

 わたしの興味のあった彼の「統合失調症」のときのネコの絵だが、いちおう彼が絵を描いているシーンで、彼の絵に特徴的な「壁紙の模様」のような模様を描いているところもあったが、そんなサイケデリックな彼のネコの絵は、短い時間だったけれどもコンピューター処理され、まるでモアレ越しに見られる「マンダラ絵」のように画面いっぱいに拡がるシーンはあった。このショットはわたしにはインパクトがあって、そんなショットを観ることが出来ただけでも、この映画を観た甲斐があったと思うのだった。

 ルイス・ウェインを演じたのはベネディクト・カンバーバッチで、この作品の基調になるエキセントリックな空気をも表現した「熱演」だった。あと、つい先日『わたしは、ダニエル・ブレイク』でケイティを演じていたヘイリー・スクワイアーズが、ルイスの妹のマリーの役で(出番は短かったが)出演していた。それと現実にSF作家のH・G・ウェルズルイス・ウェインの作品の大ファンだったそうだが、この映画でもニック・ケイヴが彼を演じ、ラジオでルイス・ウェインのことを語るシーンに出演していた。
 そして、ネコのピーターを演っていた黒白ブチのネコは、わたしが今まで目にしたネコの中でも、もっとも愛らしいネコの一匹ではあった。