ワニ狩り連絡帳2

前世のワニ狩りの楽しい思い出。ネコのニェネントとの暮らし。

『死への逃避行』(1983) クロード・ミレール:監督

 富豪の男を次々に誘惑しては殺害していくヤバい「魔性の女」をイザベル・アジャーニが演じ、彼女を追う「タカの目」と呼ばれる探偵をミシェル・セローが演じている。
 探偵は20年以上前に離婚していて、そのときに娘は元妻に連れて行かれてしまい、その後亡くなってしまう。今は娘の容貌さえ思い出すこともできないのだが、娘への思慕は彼の妄執になっている。そんなときに「息子が女と付き合うようになったが、その女のことを調べてほしい」と、富豪からの依頼を受ける。偶然にも探偵はすぐにその女と出会い、目を惹かれてしまう。そしてその夜には女が依頼主の息子の死体を湖の真ん中でボートから捨てるのを目撃するのだった。
 探偵は「事件を解決しよう」とするのではなく、ただ女のあとを追うストーカーになってしまう。どうやら探偵は、女の中に自分の娘の幻影を見ているようだ。

 映画ではその翌日には女は容姿を一変させ、名前も変えて別の男と会い、その日のうちに男を殺してしまうが、これはある程度の期間を圧縮して表現する、映画的テクニックではないかと思う。
 女は次々に名を変え姿を変え、男を誘惑して殺していくのだが、探偵は「ひとりごと」を語りながら女をつけ回し、ずさんな女の犯行が発覚しないようにあとで細工をしたりもする。
 そんな繰り返しの中、女は盲目の富豪(サミー・フレイ)と知り合い、彼の手助けで彼女のギャラリーをオープンさせもする。しかしどうやら探偵は女が落ち着くことを厭うのか、富豪が道路を横断するのを手助けするふりをして、富豪をバスの前に突き飛ばして殺害する。

 ここから、女の零落が始まる。ヒッチハイクしていた女と知り合い、この女と二人で強盗を繰り返すようになる。相方の女は射殺され、女も警察に追われるようになる。その身元、本名(カトリーヌ・レリス)もわかり、探偵の娘が亡くなった年に産まれ、2年ほど刑務所に入っていたこともあるようだ。
 警察に追われる女を探偵も追うのだが、ついには彼女の最期を目撃することになる。
 映画はそののち、元妻と再会した探偵が二人で娘の墓参りをする場面で終わる。

 彼女は盲目の富豪といっしょになっていれば幸福になっていたかもしれず(もちろんいつものように富豪を殺害したかもしれないが、ギャラリーまでオープンさせてその路線はないだろうとは思う)、そういう風にみると「探偵」は彼女の幸福を壊したのではないかという見方にもなる。
 映画では冒頭からかなり長い時間、探偵と女との接触はなく、ただ探偵が彼女を追うばかりなのだけれども、終盤についに探偵は彼女と会って会話をし、自分の娘の話をする。このシーンが泣ける。

 どうもすべてを観終わってしまうと、女の中に自分の娘を仮託してみていた探偵が、彼女の死を見届けることで「自分の内なる<娘>」を葬った、というストーリーに思える。ちょっとひねった「ファンタジー」として楽しめた。
 そうそう、音楽がカーラ・ブレイで、演奏はもちろん「カーラ・ブレイ・バンド」なのだった。

 もうひとつのこの映画の楽しみはやはり、イザベル・アジャーニの美しさを堪能できるということでもあって、前半のさまざまなコスチュームとメイク、髪型の変化(へんげ)を観る楽しみ、そしてサーヴィスショットの「獄中写真」のビッチな表情、「探偵」との対話ではじめてみせる「リアル」な女性らしさと、ひょっとしたら「いちばん美しかったころ」のイザベル・アジャーニを、いっぱい観ることができるのではないだろうか。