ワニ狩り連絡帳2

前世のワニ狩りの楽しい思い出。ネコのニェネントとの暮らし。

『裸のキッス』(1964) サミュエル・フラー:脚本・監督

裸のキッス [DVD]

裸のキッス [DVD]

  • 発売日: 2006/12/21
  • メディア: DVD

 先日観た『ショック集団』の翌年に撮られた作品で、『ショック集団』で主人公の恋人を演じていたコンスタンス・タワーズが主演している。
 映画はいきなり、そのコンスタンス・タワーズがカメラに向かって執拗に殴りかかるショットから始まる。彼女は男を殴っていて、その男を殴り倒してしまう。彼女ケリーは実は売春婦で、殴られた男は売春組織の元締めで、男はケリーをだまして売春婦を続けさせ、上前をはねていたらしい。
 男を殴りつづけるうちに彼女のウィッグがずり落ち、彼女がスキンヘッドであることがわかるが、それは彼女が逃げないように男に髪を剃られたのだった。
 ケリーは気絶した男の札入れから自分の正当な取り分だけを抜きとり、ウィッグをつけ直して化粧をする。ここに「The Naked Kiss」とのタイトル文字がかぶさる。

 2年経ち、ケリーはバスで小さな町「グラントヴィル」にやって来る。バスから降り、母親の抱く赤ちゃんに微笑みかける。ここでケリーはグリフという刑事に誘われてホテルで一夜を過ごす。ケリーは「髪が伸びるまで外に出られなかった」と語る。グリフは自分の管轄で娼婦として商売をすることは許さないが、川を越えたところの、キャンディという女性のやっている店は娼婦たちを置いているからそっちへ行けと言う。このあと、ケリーは鏡を覗き込んでいぶかしげな表情を見せるショットがあるのだけれども、これはどうやら自分の容貌の衰えを感じ取り、売春婦をやめる決意をするということらしい。

 ケリーは障害児のための病院で看護の仕事を得てはたらきはじめる。彼女は根っから子供が好きなようで、その表情は明るさに満ちている。じきに彼女はその町を興した一族の末裔、町のセレブである富豪のグラントと知り合い、仲を深め、グラントから求婚されることになる。それはケリーにとって夢のような話ではあったのだけれども、実はグラントには「影の顔」があったのだ。
 グラントは「小児性愛者」で、幼い女の子を連れ込んだところをケリーは目撃し、激高したケリーは映画の最初のシーンのように、電話の受話器でグラントを殴り殺してしまう。
 ケリーはグリフのいる警察署に逮捕され拘禁されるが、ケリーがグラントを殺した正当な理由を立証するには、被害にあった幼女を見つけなければならないのだった。

 この映画のテーマは、前作『ショック集団』が「アメリカの狂気」を暴いたように、「アメリカの偽善」を暴くものだろうか。もちろん富豪のグラントは「善人」の見せかけの「偽善者」だし、刑事のグリフもまた、自分自身は娼婦を買いながらも自分の管轄では商売をやらせない「偽善者」なのだろう。ケリー自身が娼婦をやめるということもまた、娼婦の中に「偽善性」を見て取った結果なのかもしれない。
 これら「大人の偽善」に対して、子どもたちの無垢さというものが強調され、そんな遊ぶ子どもたちの姿も何度も登場する。ケリーがおさなごに注ぐ愛情あふれたまなざしも印象に残るのだけれども、実は終盤にケリーは「子どもを産めない身体」なのだということがケリー自身によって語られ、そのことがよりいっそう、ケリーの子どもに注ぐ愛情を強くさせ、子どもの「無垢さ」を奪おうとするものへの憎悪となるのだろう。

 タイトルの「裸のキッス」というのは娼婦たちの使う隠語で、「変質者特有のキスの味」のことを言うのだと、ケリー自身が語る。
 映画ではベートーヴェンの『月光』、『運命』などの音楽も大きな意味を持って使用されていたのだが、もう今思い出そうとしてもはっきりとしなくなってしまった。情けないことだ。