ワニ狩り連絡帳2

前世のワニ狩りの楽しい思い出。ネコのニェネントとの暮らし。

『成城だよりⅢ』大岡昇平:著

 雑誌「文學界」の1985年3月号から1986年2月号まで連載されたもので、内容は1985年1月から12月までの「日記」。大岡氏75歳から76歳にかけての日記であられる。
 この時期に大岡氏は『堺港攘夷始末』を書き進められ、雑誌に夏目漱石の小説について不定期に連載される。やはり相変わらず映画もけっこう観ておられ、ミロス・フォアマン監督の『アマデウス』について書かれたり、ヴィクトル・エリセ監督の『エル・スール』をご夫婦で観に行かれ、お二人で気に入られたりするが、ゴダールの『カルメンという名の女』は「楽屋落ち」的とされてお気に召さなかったご様子。
 大岡氏の年譜をみると、終戦後復員された大岡氏は「フランス映画輸出組合日本事務所」の文芸部長に就任され、字幕翻訳をやられた時期というのもあられたらしい。この巻にはちょうどこのときに亡くなられたルイーズ・ブルックスへの偏愛も語られていた。

 やはり、圧倒的な読書量と、過去に読まれた書物の「記憶」、その「記憶」を、新しい読書から発展されて行かれるさまにはかなわないというか、いくらわたしが記憶力に問題を抱えているとはいえども嫉妬に駆られるというか、「もう自分にはこういう<頭脳>の使い方は出来ないのだろうな」とガックリしたりもする。

 1985年はいろいろな事件もあった年で、新聞を読まれてやテレビ報道を見られての「ジャーナリスティック」な話題も多く取り上げられ、戦中派(という言い方でいい?)としてのリベラルな意見を述べられる姿も印象に残った。

 というか、読み終えて、いかにこのわたしの「日記」が情けないモノであるかと、(敵うものではないが)蒼ざめる思いがしてしまう。