ワニ狩り連絡帳2

前世のワニ狩りの楽しい思い出。ネコのニェネントとの暮らし。

『白夜』(1957) フョードル・ドストエフスキー:原作 ルキノ・ヴィスコンティ:監督

白夜 【HDリマスター】 [DVD]

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  • 発売日: 2017/09/30
  • メディア: DVD

 ヴィスコンティの監督作品だし、マルチェロ・マストロヤンニマリア・シェル、そしてジャン・マレーという三人の名優の共演、音楽がニーノ・ロータ、そして撮影は後期のフェリーニの作品を手がけていたジュゼッペ・ロトゥンノと、楽しみのいっぱい詰まった作品。そして原作はドストエフスキードストエフスキーではちょっと異色の作品ではないかと思うが)。

 日記の方に書いたが、わたしはこの原作小説を高校生の頃に読んでいたわけで、ストーリーなどはもう記憶になかったけれども、それを読んだ当時のわたしの心的状態のようなものは、この映画を観てよみがえるところもあり、「そうだったのだよな」みたいな懐かしむような気分もよみがえるのだった。その、高校時代のわたしの「心的状態」を書いておけばつまり、「オレも彼女がほしいよな」とかいう気分ではあり、それといっしょに当時の女性との交友とかから「でも<彼女>なんて、やっぱりオレにはムリっぽいな」という気分とを合わせて持ちながら、そのドストエフスキーのそんなに長くはない原作を読んでいたはずだった。
 そういうわたしの心理を、まさにこの映画でマストロヤンニが体現してくれて、ひとつの「ファンタジー」(あと味は苦いのだけれども)をみせてくれるのだった。

 舞台はイタリアのどこか、大きくも小さくもない街のようだけれども、その町に転勤してきたばかりのマリオ(マストロヤンニ)が、夜の街を半分迷うように歩いていて、橋の上で泣いているナタリアという女性(マリア・シェル)と出会うのだ(彼女はすぐには名前も教えてくれないのだが)。なんとか次の夜も会う約束をして、次の夜に彼女と話をすると、彼女は1年前に街を出て行った男(ジャン・マレー)の戻って来るのを待っているということがわかる。そうしてそうして、というお話。マリオにしてもナタリアにしても、夢いっぱいの希望と悲しい絶望とのはざまで運命にもてあそばれるという感じ。いちどは男の戻ってくることはないだろうと、ナタリアもマリオとの未来を夢み、マリオも幸福の絶頂感につつまれるのだけれども、そのときに、橋の上でナタリアを待つ男の姿がナタリアの目にはいるのだった。

 けっきょく、主人公(マリオ)はナタリアに翻弄される「夢想家」というところだろうし、ストーリーとしてはやはり、まだ恋人もいない男性が観るのにぴったりな映画かもしれない。

 でもこの作品、さすがにヴィスコンティというか、映画的な魅力にはあふれている作品だ。
 まず、観ているとこの舞台になった「夜の街」は、現実のどこかの街でロケーションしたのではなく、これは壮大なセットを組み立てての撮影だろうと気づく。これはイタリア映画(正確にはイタリア・フランスの合作映画)だから、きっとチネチッタ(川崎の映画館ではなく、ローマ郊外にある大規模な映画撮影所)で撮影したのだろうなと思う。じっさい、Wikipediaで「チネチッタ」を調べると、そこに「チネチッタで撮影された主な映画」という項目があり、その中にやはりこの『白夜』も含まれていた。
 通路の両側の建物のネオンも美しいし、セットの中に水路を引いて終盤にはマリオとナタリアがボートを漕ぎだしたりもする。相当に大きなセットだし、映画でのカメラ位置に合わせた建物や橋の造形になってもいるわけだ。
 だから、出演者と共に移動していくカメラの動きもスムースで、その構図もばっちり決まっている。わたしなどは、映画のいちばん冒頭のシーン、街に入ってくるバスをカメラがまずは俯瞰で捉え、カメラがずずずっと降りて来て、停車するバスの車輪がまさにストップするところのアップになるショットに惚れ惚れとしてしまった。そして、夜の街の中をさまよって行ったり走り抜けたりするマリオやナタリアを追っていくカメラの動きが、観ているわたしの気もちを映画の中にどんどん導いていくわけでもある。

 書かずもがなのことを書けば、観ていて先日観た『ラ・ラ・ランド』を思い出して比べてしまうようなところもあり、ま、比べてもしょうがないのだけれども、「演出力」の差は歴然としていたのではないかと思う。ラスト近く、雪の降った街の中の公園にマリオとナタリアが立つ、この映画の中でいちばん幸福だったシーン、わたしは『ラ・ラ・ランド』みたいにマリオとナタリアは踊りだすのではないかと思ってしまった。実はその前に、別のバーの中のシーンで二人はいっしょに踊るわけだけれども、このバーでの皆の踊りとかが思った以上に尺が長く撮られていて、ヴィスコンティの演出意図とか考えたりもしたのだった(マストロヤンニが変なダンスを見せてくれたりもする)。

 ラスト、雪の積もった夜の街をマリオがひとりぼっちで歩いていく場面、そこにこの映画のはじめの方で登場したイヌがまた姿をみせ、ものすごく泣けるエンディングになっている。イヌはかわいいなあ。