ワニ狩り連絡帳2

前世のワニ狩りの楽しい思い出。ネコのニェネントとの暮らし。

『お引越し』(1993) 相米慎二:監督

お引越し (HDリマスター版) [DVD]

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  • 発売日: 2015/05/02
  • メディア: DVD

 離婚を前提に別居を始めた両親のもと、小学6年生(?)のレンコの行動を通じて彼女の心の変化、成長をじっと見つめるような映画。監督は相米慎二。レンコを演じた田畑智子のデビュー作であり、母のナズナを演じた桜田淳子は例の宗教の方へ行ってしまい、これが最後の映画出演となっている。父のケンイチを演じているのは中井貴一

 冒頭がまず家族3人での食事シーンなのだけれども、3人の座るテーブルが三角形をしていることに目を奪われ、気になって仕方がない。その食事のあとにケンイチは転居して行くのだが、レンコはナズナに内緒でケンイチについて行ったりする。
 ナズナにとっては「離婚」は自明の理で、さっさとレンコとの二人の生活の仕事分担、ルールなどを決めて行き、そんなナズナにレンコは反感を持つ。ナズナはいずれケンイチに離婚届に判を押してもらうつもりで、自分の欄だけ書き込み終わっている離婚届をレンコに見せたりもするが、レンコはその離婚届を隠してしまう。
 いちおう、週に一回は3人で食事会をすることにしているけれども、気づまりな食事会がイヤなレンコは、「食事会は月に一回でいい」という。
 レンコはなんとか家族の関係を改善させようと、ケンイチの家に立てこもることを計画するが失敗し、自宅の風呂場に閉じこもる。ケンイチも心配してやって来るのだが、けっきょくナズナとのケンカにはなるし、ナズナのレンコへの怒りも爆発して風呂場のガラス戸をぶち割ったり。
 さらにレンコは、今まで毎年行っていた琵琶湖の祭りへの家族旅行を計画し、自分で予約などの手はずを整えてしまう。そして‥‥。

 実はわたし自身がこの映画のような体験をしているわけで、こう、ツラいというのでもないけれども、そんなに真剣に観るのではなくちょっと距離を置きながら観ていたのだけれども、やはり演出面で多用されるワンシーンワンカット長回しに目が奪われる。ただ単純に「長回し」というのではなく、その中でカメラの位置(高さ)を変え、カメラの向く方向もぐるりと変えたりする。撮影監督は、この作品まで海外でも活躍されていた栗田豊通氏。

 それでやはり、終盤の琵琶湖畔の祭りの中を彷徨するレンコを追う演出はなんとも素晴らしく、その幽玄ともいえる夜の森の中のシーン、わたしは観ていてレンコは死んでしまうのだろうか、などと思ってしまった。
 このシーンのあとレンコは湖畔にたどり着くのだけれども、そこでは祭もクライマックスで、船に乗せられた神輿が湖水上を進み、火を放たれて崩れ落ちる。その場にケンイチもナズナもあらわれ、湖の中へと進んで行く。その場にはもうひとりのレンコもいて、そのさまをレンコが離れたところから見ている。レンコは「おめでとうございます」と何度も叫び、そしてもうひとりのレンコを抱きしめる。とても幻想的な場面であった。
 ナズナと二人、帰りの電車の中でレンコは、隠し持っていた離婚届をナズナに返すのだった。

 ラスト、というかエンドロールが面白くて、ひとまわり小さくなった画面の右側にスタッフ・キャスト名が流されて行くのだけれども、画面の中では広い道路のような公園のようなところにいろんな人がさまざまなことをやっている中に、右からレンコがあらわれてそこにいる人たちに絡んで行く。これもワンカットの相当の長回しなのだけれども、最後に木陰にちょっと隠れていたレンコがまたあらわれて、カメラの方に歩んでくるけれども、早変わりで衣装は中学の制服になっていて、ヘアスタイルも変わっているのだった。
 ヘアスタイルといえば、本編でのレンコは「おかっぱ頭」というのか、田畑智子の顔・表情からもまるで高野文子のマンガから抜け出してきたキャラみたいだったし、レンコ以外のナズナらの大人の女性も、なんだか昭和30年代頃の女性のヘアスタイルみたいだった。そのことがこの作品にどこか、「今の話」ではないような雰囲気を生み出していたようにも思う。

 わたしは今まであまり相米監督の作品を観ていなくって(まあ観ていても記憶が消えているだろうけれども)、『セーラー服と機関銃』と『台風クラブ』ぐらいしか観た記憶もないのだけれども、やはり独特の才能を持つ監督さんだったと思うのである。その「長回し」へのこだわりだとか、Wikipediaで読める独特の演出法(女優への演技指導)など、溝口健二監督のことを思い浮かべたりもするが、相米監督はまた、溝口監督とはまったく異なるタイプの映画監督ともいえるのだろうか。