ワニ狩り連絡帳2

前世のワニ狩りの楽しい思い出。ネコのニェネントとの暮らし。

『動物好きに捧げる殺人読本』パトリシア・ハイスミス:著 中村凪子・吉野美恵子・榊優子・大村美根子:訳

 動物が主人公の13編の短篇集。収録作は以下の通りで、末尾のカッコ内はその作品に登場する動物。

・コーラス・ガールのさよなら公演(ゾウ)
・駱駝の復讐(ラクダ)
・バブシーと老犬バロン(イヌ)
・最大の獲物(ネコ)
・松露(トリュフ)狩りシーズンの終わりに(ブタ)
ヴェニスでいちばん勇敢な鼠(ネズミ)
・機関車馬(ネコ、ウマ)
・総決算の日(ネコ、ニワトリ)
・ゴキブリ紳士の手記(ゴキブリ)
・空巣狙いの猿(サル)
・ハムスター対ウェブスター(ハムスター)
・鼬のハリー(イタチ)
・山羊の遊覧車(ヤギ)

 たいていの作品は、動物の心を解さない残虐な行為をする飼主ら(飼主ではないケースもある)に動物が復讐する(殺してしまう)というもの。そしてたいていの作品は主人公の動物が新しいやさしい飼主と巡り会ったり、元の飼主の愛情をあらためて確認するというハッピーエンドなんだけれども、さいしょの「コーラス・ガールのさよなら公演」は、動物園に飼われていたゾウが新しい乱暴な飼育員に復讐して檻の外に逃亡、さいごは射殺されてしまうというバッドエンド。しかし、ゾウが飼育員を殺害するという事件はよく起きるみたいで、日本でも二、三年前にこのような事故が起きている。しかしこのケースはゾウには信頼の厚いはずのベテラン飼育員だったというから、「事故」だったのだろう。以後、飼育員はゾウと同じ檻の中には入らないようにしたらしい。

 それぞれの作品が個々の動物の特性というか性格をよく活かして書かれていて、同じような「復讐譚」が多いとはいっても、その動物ごとの「復讐」は異なっている。わたしはブタの獰猛な感じが好きだし、やっぱりネコは賢い。
 まあネズミは飼われていたわけではなく、自分に傷を負わせた家族に復讐するわけだし、ゴキブリはそういう「復讐」とかいうのではなく、あるホテルの没落で見切りをつけ、別のホテルへ転居するという話。

 「総決算の日」は、ニワトリを飼育する一家のところに甥が訪れていた間に起きる事件だが、家の主人は最近ブロイラー飼育に切り替えていて、そのことを若い妻は快くは思っていない。じっさい、ブロイラーの中のニワトリたちはくちばしをカットされ、狭い囲いの中で身動きもできないでいる。
 まずは出入りする大型車両に9歳の娘の飼っていたネコが轢き殺され、次にはブロイラーの電動システムに巻き込まれてその娘も死んでしまう。「もうついていけない」と思った妻は、次の朝にブロイラーからニワトリを解き放ち、夫をそのブロイラーの建物に閉じ込めてしまうのである。無数のニワトリが夫の足を攻撃し、倒れた夫の身体を皆でついばむことになる。
 この短篇の面白いのは、訪れた甥が若い妻に惹かれ、その妻の方もラストには甥と抱擁、口づけするという展開。けっこう長編小説にも仕上げられそうで、わたしの好きな作品。
 「機関車馬」でも脇役のネコは無残な死に方をして、ネコ好きとしてはつらい短篇がつづく。

 「ハムスター対ウェブスター」は田舎の広い家に転居した家族の10歳になるラリーが「ハムスターを飼いたい」と、つがいのハムスターを買ってもらうことから始まる。「子どもが産まれたら処分するのだよ」と親から言われているのだが、ラリーは産まれた子どもを広い庭に放ってしまう。信じられないことだが、そのうちに庭はハムスターの巣だらけでボコボコの穴だらけになってしまい、膨大な数のハムスターが繁殖するのである。
 これはちょっと、前に読んだ「かたつむり観察者」を思わせるところもあるし、ハムスターを大事に思って親とも対峙するラリーは、「すっぽん」の主人公の少年を思わせるところがある。
 「鼬のハリー」もイタチを飼う少年が主人公で、「ハムスター対ウェブスター」に似たところもあるのだけれども、この作品に描かれたイタチは、どうもわたしの知っているイタチとはちがうようだ。原題は「Harry:A Ferret」とあるので、これはフェレットのことなのだろうけれども、それでもこれはわたしの知っているフェレットではないように思える。