ワニ狩り連絡帳2

前世のワニ狩りの楽しい思い出。ネコのニェネントとの暮らし。

『SOSタイタニック/忘れえぬ夜』(1958) ロイ・ウォード・ベイカー:監督

SOSタイタニック [DVD]

SOSタイタニック [DVD]

  • 発売日: 2000/07/28
  • メディア: DVD

 イギリス映画。原題は「A Night to Remember」で、「タイタニック」の文字はタイトルには示されていない。いちおう、二等航海士のチャールズ・ライトラー(ケネス・モア)の存在(事故から生き残った実在の人物)が狂言回し的にフィーチャーされるが、この遭難事故全体を俯瞰するようなドキュメンタリータッチの群像劇になっている。

 意外に、といっては失礼だろうが、この特殊撮影は相当の完成度で、冒頭のタイタニック号の進水式、そして沈没するタイタニック号の映像など、迫力がある。出港した船内では三等客席でアイルランドからアメリカに向かう乗客がアイルランドの伝承歌を歌ったり、ジグで皆が踊ったりするところが、一等客の乙にすました気取りぶりとの対比にもなっていたし、この映画のちょっとした息抜きにもなっていて気に入った。
 Wikipediaで「タイタニック号沈没事故」という(けっこう長い)項目を観終わったあとに読んでみたのだけれども、この映画に描かれたことはたしかに「事実」をもとにつくられているようだ。
 他の船舶との通信の行き違いで、タイタニック号が海上の巨大な氷山に向かって突き進んでしまった経緯、さらに氷山との衝突後に「救命を求める電信」が目に見えるところにいた船舶に届かなかったことなど、まずは当時の船舶間の通信のいいかげんさというものにいきどおる(この事故を教訓に、以後の船舶間の通信体制は改められることになったそうだ)。

 「全員が乗り込めない救命ボートへの乗客の避難」は、この映画ではそれなりに整然と行われたように描かれていたが、じっさいにはそれほどでもなく、まだまだ人の乗れる救命ボートが早々と海に降ろされたりもしていたらしい。例えば三等船客が救命ボートに乗ることを阻止するために、三等船客が甲板に上がることを船員が力づくで阻止していたわけだが、このことも事故のあとに倫理上大きな問題となったのだった。船が沈没したあとに、救命ボートに乗っていた女性が「引き返して海上の人を救助すべきだ」と主張したのも事実で、その女性はかなり有名になったらしい。
 タイタニック号の沈没の瞬間の描写もWikipediaに記載されている通りで、映画製作にあたって生き残りの乗員乗客からの聞き取りで、この事故の<事実>の全体像を映像化しようとの意気込みが感じられる。まさにタイトルにあるように、「A Night to Remember」を映像化した作品だろう。
 そういう、今ではそんなWikipediaの記述と読み比べて「ああ、そういう描写が映画にもあった」と照合するようなところの大きな映画でもあるとは思うけれども、やはりその前に、ヒューマニズムに裏打ちされた「秀作」ではあったと思う。

 タイタニック号の遭難事故を描いた映画というと、ジェームズ・キャメロン監督の『タイタニック』が思い出されるわけだが、まあわたしも公開当時に観てはいるのだけれども、基本的なストーリーなどはすっかり記憶から消えてしまい、あまりストーリーの流れに関係のないことばかり記憶している。
 そのひとつがホールで演奏していた楽団員のその後で、このことはGabin Bryersが私の大好きな「The Sinking of the Titanic」という曲で、その楽団員が甲板で演奏していた曲を再現していたものでわたしも知っていたのだが、キャメロンの『タイタニック』では甲板で演奏をつづけていた楽団員に、楽団長が「もはやこれまで、解散しよう」となってそこで演奏は終わる。現実には楽団がいつ、どのように演奏を終わらせたかということはわからないようで、「なんか即物的なというか、描いてもしょうがないことを映像にするのだな」と思ったものだが、この『SOSタイタニック/忘れえぬ夜』では、たしかに楽団長らしき人が「もはやこれまで」と皆を解散させようとするのだが、楽団長がその場にとどまってヴァイオリンを弾き始め、それを聴いた残りの楽団員もいっしょに演奏を再開するという描写になっている。これは「フィクション」かもしれないけれども(『タイタニック』だって、その現場を見た人はいないのだからフィクションであることに変わりはない)、わたしは映画としてはもちろんこちらの方の描写を取る。
 もうひとつ、まるでどうでもいいことなんだけれども、『タイタニック』でたしか画家志望だったというレオナルド・ディカプリオが船内で知り合ったケイト・ウィンスレットといい仲になり、自室でケイトのヌード・デッサンを描くのだけれども、画面に写されたそのデッサンがめっちゃめちゃ下手くそで、「そりゃあ画家にはなれんわさ」と思ったのだったが、そのデッサンは実は監督のジェームズ・キャメロンが描いたものだったということで、「ああいう下手な絵を世界にさらすというのはどういう神経なのか? キャメロンはあんな絵でも<オレは絵が上手い>とうぬぼれていたのだろうか?」などとは思ってしまったわけだった。