ワニ狩り連絡帳2

前世のワニ狩りの楽しい思い出。ネコのニェネントとの暮らし。

『ハドソン川の奇跡』(2016) クリント・イーストウッド:監督

 2009年1月15日に起きた、今でも(特にアメリカの)人々の記憶に残っているのではないかと思われる「USエアウェイズ1549便不時着水事故」と、その後のNTSB(国家運輸安全委員会)による事故調査委員会の機長への調査を描いた作品。
 映画は時系列的に「事故」~「調査」と追うのではなく、「調査」の様子から始まる。その中で「いったい何が起こったのか?」ということで「事故」の模様が描かれ、そのことを前提としてさらに「調査」となり、機長(トム・ハンクス)からのNTSBの調査方法への「異議申し立て」があり、ふたたび「事故」のときの様子が描かれる。
 問題は「エンジン停止」から「着水」までの208秒であり、調査の過程で機長から「人的判断時間」としての35秒を考慮に入れてほしいとの要請がある。そのことでNTSBの行った「事故に至るシュミレーション」は劇的に覆るし、同時にハドソン川に沈んでいた旅客機エンジンが発見され、「作動不能のダメージ」を受けていたことが報告されるのだった。

 ‥‥たしかに、緊迫感にあふれた映画で、これは「ディザスター回避」映画という一面があるのだろうと思う。しかし、このときすでにアメリカ国内では「ヒーロー」扱いされていた機長を、こうやって7年を経て改めて「ヒーロー」として描き直すことに、どれだけの意義があるのか、わたしには正直言ってよくわからない。
 インパクトのある映画で、短いショットの積み重ねでの見事な「事故」の再現には、心を惹き付けられる。その中に、ある面では「人間はコンピューターではない」という当たり前の主張も含まれているようで、さいごにシュミレーションが覆る展開はまさに「劇的」なものだったと思う。

 「映画」として言いたいのは、機長の過去の「訓練中」の映像というのはどこまで必要だったのか、という疑問がひとつにある。何だかこの作品の原題も「SULLY」と機長の名前でもあるし、機長の「ヒーロー」視に後押しをしているようにも思える。
 もちろん、この「事故」において、機長の自分の長いキャリアからの冷静な判断が乗客155人の生命を守ったことはわかるのだが、ただただ実在の人物をヒーローとすることに力を注いだ映画、という感想にはなる。
 あと、機長はどこまでも彼の夫人(ローラ・リニー)とは電話で会話するだけなのだが、普通の映画ならラストに機長は夫人と会い、抱き合うようなシーンが入れられるような気がする(これはそういうシーンがないからダメ、ということではないのだが)。

 わたしとしては、あまり表情を変えないトム・ハンクスの演技との対比として、けっこう喜怒哀楽的に表情を変えてみせる副操縦士役のアーロン・エッカートの演技が、この映画の中では良かったと思った。

 今は詳しく分析出来ないけれども、この映画にはクリント・イーストウッドの持つ「保守性」があらわになっているのではないか、などとは思ってしまった。