ワニ狩り連絡帳2

前世のワニ狩りの楽しい思い出。ネコのニェネントとの暮らし。

少年王者舘第30回本公演『I KILL -イキル-』(2006) 天野天街:脚本・演出

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 わたしはかれこれ20年以上はずっと少年王者舘の公演を観ているわけだけれども、ほんとうは今年も9月ぐらいに新作の東京公演があるはずで楽しみにしていたところ、COVID-19禍で中止になってしまった。それでYouTubeにこの公演映像が劇団によって公式にアップされたというもの(期間限定かも知れない)。実はこの舞台もじっさいにナマで観ているのだが、例によってまるで記憶には残っていなかった。

 セリフの聞き取れなかった箇所が多く、「ちゃんと観た」とはとても言えないのだが、それでも読み取れた少年王者舘の演劇(お芝居)の特徴とかを、他の公演の記憶などとも合わせて書いておこうかと思う。

 劇団名は「少年王者舘」だが、少年が出てくるわけではない(ずっと過去の公演ではいつも女優が「少年」を演じていたという記憶はあるが)。たいていの公演は女優さんたちが前面に出て男優は2~3人、みたいな構成が多かったと思うのだけれども、この『I KILL -イキル-』は例外的に多数の男優さんが出演していた。
 ちょうど去年の今ごろはついに東京の新国立劇場への進出を果たし、新作を上演していたけれども(これは新国立劇場の新しい芸術監督が「少年王者舘」の熱烈なファンだったことによるらしい)、満員の盛況だった。まあこの劇団には公演には毎年かけつけるコアなファンが多く、わたしもその一人ではある。

 たいていの作品の背景は昭和を思わせるレトロな街並みや、四畳半のアパートの部屋の中のような設定が多く、これが劇中で「舞台崩し」ではないけれどもガラリと変化したりはする。そういう舞台設定の演出で特徴的なのは、舞台に映像を投射して空間をガラリと変える演出で、映像投射によって舞台の真ん中にブラックホールのような黒い穴があらわれ、その中から人がはい出してくるのは今回も観られる通り。あとは瞬間の暗転で登場人物が入れ替わり、舞台の狭い空間で時間~空間をスワップさせる演出は毎回、劇団の自家薬籠とするところのもの。
 そして毎回「ことばあそび」ということが重要な要素ともなり、俳優たちのセリフが「しりとり」になっていくことも今回観られただろう。
 そんな演出からもわかるように、ストーリーはいつも素直なものではなく、異なる時間軸、異空間がいつも紛れ込んでくる。この印象としては、過去にあった少年少女を主人公としたかわいい絵柄の前衛的なマンガのようだ、というのがわたしの感想としてはいちばん適格のように思える(アバウトな言い方だが)。
 あとは実はしょ~もないギャグというのも毎回のお楽しみというか、最近の舞台ではあまりやらないが、短いギャグを延々と繰り返すことをよくやっていた。観ていても「いつまでやるんだ」と思ってしまうのだが、台本には「これを十万回繰り返す」とか書かれていたらしい。今回の作品でも、「邪魔するぜ」~「邪魔したな」というギャグ(?)は相当回繰り返される。
 そうして、俳優の対話ではなく、客席に向かって直立してのセリフの「朗誦」というのもこの劇団の特徴というか、わたしはコレが観たくて毎回通っているようなところもある。
 そういう演出からも、昭和的な美術からも、観ていてもいわれも知れぬノスタルジー感覚を感じることになる。
 あ、あと劇団員の夕沈振付けによる劇団員全員によるダンスが毎回ふんだんに盛り込まれ、この「夕沈ダンス」だけからなる公演も行われている(これはわたしは行ったことはないので詳細は分からないが)。

 この『I KILL -イキル-』で読み取れた展開は、まずは舞台中央に中年の男性が立っているのだが、彼の周辺にあらわれる人たちが彼に質問をつづけたところではどうも自分が誰だかわからない「記憶喪失」のようなのだが、観ている印象としては「この人は戦争で亡くなられた人なのではないか」と思うことになる。彼の名まえは「イチロウ」だとわかるのだが、そのうちに男たちが大勢あらわれ、彼らのすべてが「イチロウ」を名乗ることになる。ほんとうの「イチロウ」は誰か?とやっているうちに舞台は「終わり」を告げられ、「舞台の終わり」は「世界の終わり」でもあるのだということですべては終了する。

 まあもっともっといろいろとある舞台だったわけだけれども、今思い出して言えるのはこんなことでしかない。早くCOVID-19禍が終わり、彼女ら、彼らの新作舞台をまた観たいものだ。