ワニ狩り連絡帳2

前世のワニ狩りの楽しい思い出。ネコのニェネントとの暮らし。

『クレイジーホース・パリ 夜の宝石たち』(2012) フレデリック・ワイズマン:音響・編集・監督

 パリの老舗キャバレー、「クレイジーホース」は有名な観光ナイトスポットで、キャバレーのテーマは「アート・オブ・ヌード」ということ。そこにフレデリック・ワイズマンが訪れて、彼流のドキュメンタリーを撮ってしまった。舞台とそこで演じられる作品を素材にしたということで、先日観た『コメディ・フランセーズ 演じられた愛』を思い浮かべもし、じっさいに『コメディ・フランセーズ』のように「楽屋裏」~「舞台」、「リハーサル」~「本番」、そして演出会議、運営会議の様子をはさむということで、かなり似た展開ではあった。ただこの「クレイジーホース」の舞台では「ダンス」的な要素が強いわけで、そういうところではワイズマン監督の過去の『アメリカン・バレエ・シアターの世界』(95)や、『パリ・オペラ座のすべて』(09)に近接したところがあるのかもしれない(わたしはその2作を観ていないので、比較は出来ないが)。

 もちろんこの作品でも、鍛えられたダンサーらの動きを追うことにひとつのポイントを感じるが、ここではダンサーらは基本「ヌード」であり、そんな女性ダンサーらの「美しさ」を追うことが、この作品の特色なのかとも思う。そしてその「美」を引き出すための舞台の特徴として、「原色の図柄入りの照明」「舞台上でイリュージョンを生み出す鏡」というのが大きな役割を果たしているようで、いわゆる普通の「ダンス」「バレエ」、そして「演劇」の世界とは異なっている。

 観ていて、この作品の中で「フィリップ」と呼ばれて登場する振付家、演出家が「見たことのある顔だなあ」とは思っていたのだけれども、さいごのクレジットで彼がなんとフィリップ・ドゥクフレだったということがわかった。
 フィリップ・ドゥクフレはコンテンポラリー・ダンス振付家として知られていて、日本でも公演を行い、わたしも観に行った記憶があるのだ。
 どうやらフィリップ・ドゥクフレはこの時期特別にこの「クレイジーホース」の演出家を任されていて、この作品でもさいごのハイライト的に取り上げられている「D・E・S・I・R」という作品の振り付けを担当しているのだった(他の作品は「クレイジーホース」での以前からの出し物で、フィリップ・ドゥクフレの振り付けではない)。それで、ドゥクフレが「いちどしばらくは店を閉めて稽古すべきだ」と言っていたことも理解が出来る。

 冒頭にいきなり、鏡を使った「本番」を撮影した映像が流れ、しばらくはまさに「本番」舞台を撮った映像が続くけれども、その後はリハーサルの場面や舞台裏の様子が紹介される。
 う~ん、わたしとて男だからというか、やはりダンサーの方々の身体の美しさには見とれてしまう。特にヒップラインは実に美しい曲線を見せておられるし、トップレスのバストも、いわゆる「巨乳」の方は採用されないのだろうか。全体の振り付けと合わせて観た印象では「過剰さ」はなく、やはり「シック」ということばが似合うようであり、女性客が多いこともうなづける。

 じっさいのところ、前に観たワイズマンの作品と比較して、どこか演出として物足りないと感じた部分もあったが(ワイズマン監督は自分の作品の中で出演者にインタビューなどされないのだけれども、この作品では他のメディアの方が芸術監督とかにインタビューをしている場面が撮られていて、「それはこの映画としてインタビューするのとさほど変わらないな」とは思ったのだった)、このシックさ、ゴージャスさはやはり無視できない良さがあるとも思い、惹き付けられるのだった。
 フィリップ・ドゥクフレの「熱意」もさることながら、全体の芸術監督を務める方の、この「クレイジーホース」への、ダンサーたちへの「愛」は(彼の言葉もあって)ガンガンと伝わってきた。