ワニ狩り連絡帳2

前世のワニ狩りの楽しい思い出。ネコのニェネントとの暮らし。

『現金に体を張れ』(1956) ジム・トンプソン:脚本 スタンリー・キューブリック:脚本・監督

 先日観た『地下室のメロディー』についていろいろ読んでいたら、あのラストとか、この『現金に体を張れ』の影響が強いのではないかということも書かれていて、まずはキューブリック監督が「ビッグ・ネーム」としてのし上がるきっかけになったのがこの作品ともいう。わたしはこのあたりのキューブリック作品を観ていなかったので、「U-NEXT」のお世話になって観ることにした。
 それで観始めて、さいしょのキャスト・スタッフらのクレジットを見ていると、「SCREENPLAY BY STANLEY KUBRICK」のあとに、「DIALOGUE BY JIM THOMPSON, BASED ON THE NOVEL "CLEAN BREAK" BY LIONEL WHITE」と出て来る。
 まず、原作小説の作者としてライオネル・ホワイトの名が出て来るけれども、彼は犯罪小説の作者としてかなり知られた存在で、実はゴダールの『気狂いピエロ』の「原案」の作者でもあり、邦訳も出ている。これは、この『現金に体を張れ』のプロデューサーのジェームズ・B・ハリスがこの作品の映画化権をゲットし、彼がその前のキューブリックの作品を高く評価していたところから、ここに「ハリス・キューブリック・プロダクション」を設立し、キューブリックに監督させるのだ。
 次に「ダイアローグ」の作者としてのジム・トンプソンだけれども、この人はいわゆる「暗黒小説」の作者としてならした人物で、今から30年ぐらい前に日本でもちょうびっとこの作家のブームが起きかけたことがある(もちろん出版社の策略だったが)。わたしもそれに乗っかって、『内なる殺人者』という作品などは読んだ記憶がある。この人は、「犯罪者の心理とはどのようなものか」ということを踏み込んで描くことに長けており、そういうことから、この『現金に体を張れ』でも全体のストーリーの骨子は(ライオネル・ホワイトの原作から)キューブリックが書き、劇中の人物らの交わす「会話」の部分はこのジム・トンプソンが書いたのだという。
 キューブリックはこのジム・トンプソンがけっこう気に入っていたようで、次の作品『突撃』でもいっしょに仕事をし、さらにジム・トンプソンの原作を映画化する腹づもりもあったらしい。わたしも明日は、その『突撃』を観てみようと思っているが。

 っつうわけでこの映画、思いっきり「ノワール映画」。その『地下室のメロディー』や『いぬ』、『仁義』のように、ムショ帰りの男のジョニー(スターリング・ヘイドン)が仲間を集め、競馬場の売上金を強奪する綿密な計画を立てるのだった。ジョニーの考えでは「誰一人殺さずに完遂する」(競馬馬一頭は射殺されるが)完全犯罪になるはずで、綿密な役割分担とタイムスケジュールに従って数人の仲間が集められている(それでは原題の「The Killing」と一致しないようではあるが、そんなことはないのだ)。
 ところがつまりこの仲間の中に、性悪女の女房の尻に敷かれている恐妻家が加わっていて、そ~んな悪だくみを妻には隠し切れず、計画を話してしまうのであった(この悪妻が夫を会話の上で追い詰めて、計画を全部話させるまでの演出がすごくって、観ている観客はみ~んな「女性嫌悪」に陥るだろうし、恐妻家の男がどこまでも情けない!)。
 計画当日。仲間それぞれのタイムスケジュールが異なるわけで、その決行ポイントの4時30分までのそれぞれの動きを、時間をリピートさせながら何度も見せるのである。この斬新な演出はのちにタランティーノの眼に留まることになるだろう。

 これはあんまり結末まで書いてしまうと、これから観る人に申し訳ないのであまり書かないが、ひとつには『いぬ』のようにたいていの登場人物は同士討ちで死んでしまうが、それを察して現金を持って一人逃げたスターリング・ヘイドンを待っていたのは、『地下室のメロディー』のようなラストなのであった(わたしの感覚では、この『現金に体を張れ』のラストの方がカッコいい気がする)。って、しっかり「結末」を書いてしまったが。