ワニ狩り連絡帳2

前世のワニ狩りの楽しい思い出。ネコのニェネントとの暮らし。

『突撃』(1957) スタンリー・キューブリック:脚本・監督

 このときすでに、この映画主演のカーク・ダグラスは「ハリウッドの大スター」であり、この映画の製作予算の30パーセントはカーク・ダグラスへのギャラなのだったらしい。彼はこの映画の脚本を読んで、惚れ込んで出演を決めたのだという。
 その逸話にあらわれるように、この作品はキューブリック作品には珍しく「ヒューマニズムに訴える」作品で、まさに「反戦映画」といえる。キューブリックはずっと後にヴェトナム戦争を題材にした『フルメタル・ジャケット』を撮っているが、そちらは「反戦映画」というより、「戦争そのものを冷徹に捉えた映画」という印象がある。
 ところがこの文を書いているときに知ったのだが、キューブリックはこの『突撃』が「反戦映画」と見なされていることに落胆していたというのだ。しかし、この『突撃』はまごうことなき「メッセージ」の込められた映画で、その「メッセージ」は「戦争の非人間性」を批判するものだとは思う。

 ここまでのキューブリック監督のキャリアは「ノワールもの」がほとんどだが、そういうところから脱して、この作品でキューブリックは「ノワールもの」の「密室」ではなく、もっと広い宮殿の広間や戦場、そして塹壕などでドラマをつくったということで、映画作家として大きく飛躍出来たわけだろう(この次の作品は歴史大作の『スパルタカス』になる)。

 まずこの映画の幕開けの部分は、どこかの宮殿の広間でのブルラール大将とミロウ大将との談義なのだが、お互いテーブルの前に落ち着いて座って話せばほとんど動きもなく進むはずのところ、この二人はやたらと広間の中を動き回り、まるでカメラの動きのテストをするような演出になっている。
 このあとがまず、そのミロウ大将が前線の塹壕を視察するシーンとなり、細い路地のような塹壕の中をカメラが進むのだが、さらにドラマが進むと、主人公のダックス大佐(カーク・ダグラス)がその塹壕から戦士を鼓舞して外に攻め出るシーンになる。
 この戦闘シーンが素晴らしいもので、「戦闘」というよりも、敵の「砲撃」のあいだをかいくぐって兵士らが前進して行くわけだけれども、かなり強烈な演出で、これなら『フルメタル・ジャケット』の場面よりも完成度は高いのではないかとも思える。

 すべて一段落終えてのラスト、フランス国内(前線近く)の居酒屋で、店主がドイツ人の娘を紹介して歌を歌わせるシーンがあり、それまでドイツ娘をさんざん小バカにしていたフランス兵たちが、彼女の歌声を聴くとそれまでの嘲笑をやめ、その歌を皆が真剣なまなざしで聴くようになるという、すばらしいシーンも用意されている。このシーンは何とも、「キューブリックらしくもない」とも言えるのだけれども、ここでドイツ娘役で出演して歌を歌った女性、このあとにキューブリックと結婚されたらしい。そうか、そういう事情があったのか。