ワニ狩り連絡帳2

前世のワニ狩りの楽しい思い出。ネコのニェネントとの暮らし。

『欲望のあいまいな対象』(1977) ジャン=クロード・カリエール、ルイス・ブニュエル:脚本 ルイス・ブニュエル:監督

 1977年製作のブニュエルの「遺作」ということ。ブニュエルは1900年生まれだったから、このときブニュエル77歳であるが、わたしにはいささかの衰えも感じさせられない、「まだまだ若い」作品だと思った。
 原題は「Cet Obscur Objet du Désir」だけれども、「Désir」というのは後期ブニュエル映画のつきせない大きなテーマに思えるし、「Obscur」というのは言われてみると、ブニュエルの演出の秘儀というか、後期のブニュエルはまさに、「Obscur」という表現を求めて映画を撮っていたのではないのかと、そんな気がしてしまう。
 また、この作品はキャロル・ブーケのスクリーン・デビュー作ということで、1974年、17歳のときにブニュエル監督に見いだされたのだという。

 主人公のブルジョワ、マチュー(フェルナンド・レイ)は、屋敷の新入りのメイドのコンチータキャロル・ブーケ&アンヘラ・モリーナ)に一目ぼれし、口説きにかかるわけだけれども、コンチータは彼の前から失踪してしまう。これから先、このような「出会い~再会」と「拒絶と別れ」が延々と繰り返されるのである。
 話の進行としては、セビリアからマドリードへ向かう列車の一等車の中で、同室になった4人(1人はまだ子供)を相手にして、マチューがコンチータとの出会いからの一部始終を話して行くという体裁になっていて、その4人の1人にまたもやミレーナ・ヴコティッチが出ている。どうも後期ブニュエルはこの女優さんがけっこう「お気に入り」だったようだ。

 やはりこの作品のポイントは、「1人2役」ではなく「2人1役」というところにあるのはまちがいなく、一方のキャロル・ブーケは「クール・ビューティー」で、女性の中の「聖女性」をあらわしているかとも思え、もう一方のアンヘラ・モリーナは「娼婦性」「悪魔性」をあらわしているかとも思うのだが、そこまで画一的にこの2人の役者が入れ替わるのかというとそこまで厳密とも思えないところもあり、「気まぐれに演じ分けられている」ようにも思えてしまう。

 時はまさにヨーロッパで「テロリズム」がまん延している時期でもあり、冒頭にもマチューのすぐそばで乗用車が爆破される場面もある。これは「極左組織」と「幼きイエス革命武装グループ」というとの共闘らしくもあり、他の「極右組織」との闘争でもあるらしい、というか、よくわからんが、「エロス」と「テロル」との闘争なのか。

 映画のストーリーとしては、このところのブニュエル作品のように「どういうことなのかわからん」ということはなく、「若い女性に溺れる初老の男性」という、谷崎的なテーマということも出来そうだ。