ワニ狩り連絡帳2

前世のワニ狩りの楽しい思い出。ネコのニェネントとの暮らし。

『いぬ』(1963) ジャン=ピエール・メルヴィル:脚本・監督

 原題は「Le Doulos」で、これは「帽子」を意味するスラングだというが、つまりそれは裏社会で「密告屋」をも意味しているという。日本語の「いぬ」はスパイだったり「回し者」だったりの意味があるので、ちょびっと「密告屋」とはニュアンスに違いがあるだろう。

 この作品に登場するのはほとんどが「悪人(ギャング仲間)」とその「愛人」、そして捜査する警察関係の人物で、その中で重要なのがジャン=ポール・ベルモンド演じるシリアンと、セルジュ・レジアニ演じるモーリスとである。
 ストーリーはかなりややっこしくって、過去の事件も絡んで来るわけで、この映画としては冒頭に、出所したてのモーリスが、先に宝石店強奪をやったばかりのジルベールのところへ行き、そのジルベールを射殺することから始まる。以後、「ジルベールを殺したのは誰か?」ということが、ギャング仲間のあいだで問題となる。モーリスはもちろん、シリアンがやったのではないことはわかっているが、他の件で警察に待ち伏せされ、仲間は警察に撃たれ、モーリス自身も重傷を負う。気を失っていたモーリスが意識を戻すと、誰かの手で知り合いの医師の治療を受けていたのだった。誰がモーリスを助けたのかわからないが、今回警察に待ち伏せされたのは、シリアンの密告によるものだろうと思い込む。一方、警察の方でも密告を受けた警部はモーリスに撃ち殺されてしまい、「誰から密告があったのか」はわからないのである。
 モーリスの愛人も何者かに殺され、それがシリアンの犯行だと確信したモーリスは、仲間にシリアンを消しに行かせる。しかしその直後に、犯行はシリアンによるものではなく、シリアンは自分を救おうとしていたことを知る。シリアンが殺させるのを防ぐため、モーリスも出発するのである。

 けっこう登場人物も多く、関係も錯綜しているので観ていてわかりにくい。ちょっと見落としていると、次の登場人物の行動の意味がわからなくなってしまう。わたしもけっこうストーリーを追うのも怪しくなってしまい、ほんとうならもう一度、さいしょっから観直すべきだとは思った。今回は時間がないのでここまで。時間があればまた、ゆっくりと観直したい映画ではある。しかしこういう「誰が味方で誰が敵か?」などというようなスタイルの作品というと、もっと時代が下って、クエンティン・タランティーノの作品とかを思い出したりもする。
 映画の冒頭は、タイトルの「Le Doulos」のことを説明して始まるのだけれども、ラストはその「帽子」が、床に転がっているショットで終わるのだった。

 モーリスを演じたセルジュ・レジアニという役者はメルヴィルのお気に入りだったらしく、先日観た『影の軍隊』でも最初の方に、レジスタンスに協力する床屋の役でちょこっと登場する。別のところで読んだのでは、メルヴィル監督はベルモンドにもセルジュ・レジアニのことをほめてばかりいるもので、ベルモンドはいささか面白くなかったらしい。
 わたしはこのセルジュ・レジアニという役者のことは、あの『冒険者たち』で悪漢連中に拷問され、三人組の行方をバラしてしまう役どころだったことで、なぜかその名まえも記憶していた。