ワニ狩り連絡帳2

前世のワニ狩りの楽しい思い出。ネコのニェネントとの暮らし。

『グッドフェローズ』(1990) マーティン・スコセッシ:監督

 この作品は、冒頭の死体を埋めるシーンや、レイ・リオッタジョー・ペシのジョークを聞きながら大笑いしながらも、その眼がまったく笑っていなかったこと、そしてどこかでクラプトンの「いとしのレイラ」のコーダが印象的に使われていたことなど、断片的には記憶していた。ただもちろん、ストーリーの記憶は失せていた。

 映画は実在のギャングスター、ヘンリー・ヒルのヤクザな生活を描いたもので、ヘンリー・ヒルを先日亡くなったレイ・リオッタが演じ、彼の盟友、グッドフェローズのジミーをロバート・デ・ニーロ、トミーをジョー・ペシが演じている。あとわたしの印象に残ったキャストは、ヘンリーの妻となるカレン役を演じたロレイン・ブラッコ、そして彼らグッドフェローズの親分格であったポーリーを演じたポール・ソルヴィノとか。皆、すばらしい演技をみせてくれた。

 前半はヘンリーの羽振りがどんどん良くなって右肩上がりのやりくちが描かれるが、彼がコカインに手を染め、「ルフトハンザ空港現金強奪事件」以後の仲間間の「粛清」があったあたりからだんだんと「身の危険」を感じるようになり、ついには「検察側の証人」として仲間を売り、司法取引をするまでのストーリー。これが1950年代から1980年まで時系列に従って描かれるが、ここでまずは「ロック好き」というか音楽好きのスコセッシであるから、その時系列に並行して当時のヒット曲が、まるでアメリカのポピュラー音楽の通史を提示するように、山ほど聴くことができる(この中に、先に書いた「レイラ」のコーダも使われる)。

 あとやはり心に残るのは、「どうだ!」と言わんばかりのギミックな(と言っていいんだろう)演出の数々で、まあ並みの監督ではとても演出出来ないシーンの連続。
 手持ち移動カメラを多用し、ワンシーンワンカットも多いのだが、まずはヘンリーのナレーションでレストランに集う「仲間たち」を紹介するシーン、そのナレーションの紹介にピッタリとタイミングを合わせてカメラは移動して行き、紹介されたメンバーは時には「カメラ目線」で答えるのだ。
 そしてやはり驚いたのは、ヘンリーとカレンがタクシーを降りてレストランの裏口から入店し、狭い通路を通り抜けて厨房から店内へ入り、店員が用意したテーブル席に座り、舞台のバンドの司会者へとずっとカメラがあとを追って一気に見せるワンシーンワンカットで、「ギミック」だとはいえびっくらこいた。こういうシーン(見せ場)はけっこうあった。

 終盤にドラマはどんどんと、ヘンリーもカレンも命を狙われるような展開になるのだけれども、観ていてもおしっこがちびりそうに怖いシーンが続いた。特にカレンがジミーを訪ねて行き、その帰りにジミーに「ディオールのドレスがあるから持って帰れよ」と言われ、ではもらおうと歩いて行くとビルとビルの谷間の怪しい場所で、後ろではジミーが「行けよ、行けよ」と指し示しているシーンなんか、最高に怖かった。

 やっぱり、マーティン・スコセッシ監督の作品は「ひと味違うな」とは思って観終えたのだけれども、当時このあとに同じ原作者で同じ路線の『カジノ』という作品がつくられ、それを映画館に観に行ったときには(もちろんその映画の内容は何も憶えていないけれども)けっこうガッカリした記憶は残っている。