ワニ狩り連絡帳2

前世のワニ狩りの楽しい思い出。ネコのニェネントとの暮らし。

『ラブジュース』(1999) 田尻裕司:監督

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 「ピンク映画」らしくもこの作品もいろいろなタイトルの変遷があり、公開時は『ふわふわとベッドの上で』、ビデオ化されたときは『はたらくお姉さま アフター5は我慢できない』(笑)、そしてその後の公開とかDVDでは『OLの愛汁 ラブジュース』となったらしい。
 監督は、前に観た『団地妻 隣のヒミツ』で隣家のダンナを演じていた田尻裕司で、この作品がデビュー作だか2作目だか。脚本は武田浩介という人で、わたしはこの脚本は相当にいいと思う。主演は久保田あづみ(良い)で、その友人として林由美香も出ていた。

 作品は駅のホームで電車を待つヒロインに彼女のナレーションがかぶり、「今日、6年間つきあった西沢にフラれた」という。この「つかみ」がいい。彼女はよほど都心から離れたところに住んでいるのか、電車は終点近くになるのだがもうほとんど客は乗っていない。そして座るヒロインの肩に若い男が頭を乗せて眠っている。ヒロインはそっと、彼のくちびるにキスをする。
 ふたりは電車を乗り越して最終駅まで行ってしまい、自然とふたりは付き合い始めるのである。ヒロイン28歳、彼20歳の美術大学生。彼の「世間」との距離の取り方が語られ、そのことにヒロインは共感しているのだろう。ときどき挿入される、ヒロインがただオフィスでパソコンに向かっている姿がとてもいい。
 「ピンク映画」だから、当然セックスシーンもあるのだけれども、そのシーンで普通のピンク映画での男女の役割は逆転し、女性の方が男性の上になり彼の乳首をなめたり、完全に主導権をもっている。ここで「あえぐ」のは男性の方である。
 いつも攻撃的なのは男性の役割で、女性はただ受動的に男性を受け入れるという「旧的」なジェンダーの入れ替えは新鮮かつ爽快でもあり、「ピンク映画」のお約束への批判(?)、無視でもあるだろう。
 ヒロインの視点からの「年下の男性」への気もちなど、繊細な情緒が柔らかな外光と共に描かれ、この作品が一般からも高く評価されたことも理解できる。

 この作品は英語版Wikipediaにも「Office Lady Love Juice」として紹介されているのだが、それをわたしの拙い英語力を自動翻訳とかで補って読むと、瀬々敬久監督はこの作品を「政治性の欠如」と攻撃したらしい。わたしはそのような批判は理解できないが、もっと多くの人(特に女性の方々)に観られていい作品だとは思っている(残念ながら今はDVDも生産中止、品切れのようだけれども)。