ワニ狩り連絡帳2

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『マーズ・アタック!』(1996) ティム・バートン:監督

マーズ・アタック! [DVD]

マーズ・アタック! [DVD]

  • 発売日: 2011/09/07
  • メディア: DVD

 1950年代のB級SF映画、とりわけH・G・ウェルズ原作の1953年のジョージ・パル監督による『宇宙戦争』、そしてエド・ウッド映画などへのオマージュにあふれた怪作。しかもそれでいて「豪華キャスティング!」。
 そもそもジョージ・パルの『宇宙戦争』からは40年の歳月が経過し、当時のストーリーも映像も古くさくなっていて、この『マーズ・アタック!』の公開された時代は『スター・ウォーズ』全盛の世界ではあるけれども、それでもローランド・エメリッヒの『インデペンデンス・デイ』(1996)やスピルバーグの『宇宙戦争』(2005)など、ジョージ・パルの映画を現代に再生させようという試みは継続されている。

 わたしはこの種の現代(近年)のSF映画にほとんど興味もなく、『スター・ウォーズ』も観ていないし、『インデペンデンス・デイ』もスピルバーグの『宇宙戦争』も観てはいない。それは近年の映画がSFXを駆使して「リアルな映像」をつくればつくるほど、逆にウソっぽく見えてバカバカしく感じてしまうところにあるみたいだ。
 しかし、この『マーズ・アタック!』はやはりSFXを駆使しながらも、さいしょっから「ウソっぽさ」「バカバカしさ」全開の作品になっている。たとえば今、ジョージ・パルの『宇宙戦争』やエド・ウッドの作品を観たならば、その映画製作技術の稚拙さ、今の科学知識からは失笑を禁じ得ない描写などにあふれ、そのためにそんな映画を今観ることをバカバカしく感じてしまうのだろうか。
 しかし、わたしにとっては『スター・ウォーズ』のような「リアルさ」を追求したような作品こそが「バカバカしい」のであって、積極的に観ようとは思わない。
 映画には「リアルさ」とは逆に、「そんなことあるわけない!」みたいな描写も魅力的なわけであって、例えばわたしの愛好する『モンティ・パイソン』映画などは、そもそもが「バッカじゃないの!」という演出、描写にあふれているわけで、そのことがこの『マーズ・アタック!』にも共通しているのではないだろうか。この映画にはそんな「ナンセンス精神」が生き生きと脈打っている。そのことが何といっても魅力的だ。そして「(見かけは)チープな造形」。

 冒頭から登場する火星人の「空飛ぶ円盤」は、まさに50年代に想像されたステレオタイプな「空飛ぶ円盤」の引継ぎだし、グロテスクな火星人の造形も「リアルさ」とは程遠いけれども、何だかこういうのは昔見たことがあるような気にもなる。だいたい、ストーリーとはまるで無関係な「人と犬との合成」なんていうのは、ただ笑うしかないではないか。豪華出演者らの「あわれな最期」もまた、笑ってしまっていいだろうし、火星人らの末路もまたしかり。
 しかし、ただ笑って見ているだけではなくても、この作品にはすこぶる魅力的なところもあるわけで、ひとつには権力を持つ「火星人との和平を主張する」リベラル派も好戦的な連中もみんな滅亡してしまう代わりに、さいごまで生き残るのはトレーラーハウスに住む貧困家族であったり、全盛期を過ぎたボクサー、やはり全盛期を過ぎて(と言っていいのか?)ベガスのショーに出演しているトム・ジョーンズだったりと、ある意味「非政治的人間」らだということで、このあたりにティム・バートンの意志を感じてしまう(唐突なゴジラの登場もまた、ティム・バートンの「意志」だろう)。

 この映画、日本では公開時から好評だったようだけれども、本国アメリカではけっこう酷評の嵐で、「ティム・バートン史上最悪」と言われたらしい。そりゃあアメリカには「モンティ・パイソン」受容文化はないだろうしな。そんな「モンティ・パイソン」を生んだイギリスでは、この映画はどんな評価をされたのだろうか?