ワニ狩り連絡帳2

前世のワニ狩りの楽しい思い出。ネコのニェネントとの暮らし。

『レッドプラネット』(2000) アントニー・ホフマン:監督

 ちょうど、先日読んだ『月 人との豊かなかかわりの歴史』という本で、「アポロ計画」などによって「月」の神秘性が失せた結果、それまでSFの世界で「月」が担っていた舞台はその後「火星」などへと移って行ったのだということが書かれていたが、この2000年製作の映画はまさに、その格好の一例なのだろう。

 面白いのはこの映画、Wikipediaで検索すると「環境汚染や他惑星移住などを題材に、科学的な考証を重視して構成された作品である。 しかし、映画.comの報道によれば『内容が非科学的である』としてNASAが映画への協力を拒否したとされている」と書かれていて、笑ってしまった。
 ちょうど、その読んでいた『月 人との豊かなかかわりの歴史』に、過去(アポロ計画以前)に製作された「月」を舞台としたSF映画として、『月世界征服』(1950)という作品のスチルが掲載されていたのだけれども、このスチル写真、今観た『レッドプラネット』を髣髴とさせられてしまう。似てる。そっくりだ。

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 なんかこのスチル写真を見ると「チープなB級映画だなあ」と思われるかも知れないが、いやいや、この作品は「科学的考証の行き届いた本格的な宇宙旅行を扱った最初の記念碑的映画」としてアカデミー視覚効果賞は受賞しているし、ベルリン映画祭でもなんかの賞を得ている。この『レッドプラネット』が「内容が非科学的である」とされたこととは大きな違いがある。
 考えるところ、その『月世界征服』から『レッドプラネット』まで50年を経ているわけだけれども、この『レッドプラネット』にはその50年の科学的進歩がことごとく無視されてしまっている感じを受ける。こりゃあNASAは協力しないよな、とは思った。
 まあいちいち「そりゃないだろ」とあげつらうのも楽しいのだが、「火星の重力はどうなのよ?」「火星の温度は人が生きられる温度?」とか、「そ~んな視覚的に素通しの宇宙服ヘルメットで大丈夫なのか?」とかいろいろある。

 あと面白いのは、冒頭しばらくの火星探索宇宙船の内部がどうしても『2001年宇宙の旅』を思わせるデザインだったりするし、そもそも船長(キャリー=アン・モスが演じていて良い!)の名前が「ボーマン」だったりして、「いいのかよ!」と思ってしまう。
 わたしがそもそも、「この映画観てみようかな?」と思ったというのも、そのキャリ=アン・モスが出演していること、もうひとり、テレンス・スタンプさまも出演されていたからこそのことだけれども、残念ながらテレンス・スタンプさまは早い段階で、さながらイーストウッド監督の『スペース カウボーイ』のトミー・リー・ジョーンズのように亡くなられてしまわれたのだった。

 だいたい、こうやってわざわざ異星に人類がやって来たからには、「敵」がいないと映画にならない(「仲間割れ」ということがあってもいいが、ちょっとそういう描写もあった)。まさか「火星人」を登場させるわけにもいかない。まあ内容的には「火星人」が出てきてもおかしくなかったが、代わりに「火星ゴキブリ」が登場するのだ! そしてその「敵は誰?」というところは、探索隊と同行した探索四つ足ロボットのAMEEが狂ってしまい、探索隊員を「敵」と認識して攻撃してくるのだ(このあたり、『2001年宇宙の旅』の宇宙船内CPUの「HAL」を思わせられるような)。

 ラストに、ロシアが先に火星に到着させていた探索船で助かっちゃう、なんていうのはどこか『ゼロ・グラビティ』で「中国の宇宙船が命綱になる」というのを思い出させられるけれども、あんな、推進ロケットも付いていないロシアの探索船で火星を脱出できるとは思えないところはあったな。でも、この『レッドプラネット』は『ゼロ・グラビティ』よりもはるか昔につくられた作品。そういう国家間の宇宙開発競争という視点を取り込んだというのは、ちょっとポイントが高いだろうか。

 まあ、面白いんだかアホらしいんだか、よくわからない映画だったけれども(わたし的には出演男優陣はサイモン・ベイカー以外は興味なかったが)、とにかくはキャリ=アン・モスが作品を引き締めていた感じで良かった、ということにしておこう。