ワニ狩り連絡帳2

前世のワニ狩りの楽しい思い出。ネコのニェネントとの暮らし。

『ポリー・マグーお前は誰だ?』(1966) ウィリアム・クライン:脚本・監督

ポリー・マグーお前は誰だ? [DVD]

ポリー・マグーお前は誰だ? [DVD]

  • 発売日: 2017/03/11
  • メディア: DVD

 この作品は、1969年の4月に日本のアートシアター系で公開され、もちろんその公開時にわたしも映画館に観に行ったのだけれども、「ウィリアム・クライン」のことをほとんど知ることもなかったわたしには、まさにショックな映画だった。当時のパンフレット(今ではボロボロになってしまった!)を今なお保存していることからも、わたしのこの映画への愛がご理解いただけるだろうか。

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 ちなみに、この年の「キネマ旬報ベストテン」での洋画部門の第1位は『アポロンの地獄』、2位は『真夜中のカーボーイ』で、この『ポリー。マグーお前は誰だ?』はずっと下がって28位だった(邦画の第一位は『心中天網島』)。‥‥ま、一種の「カルトムーヴィー」ですから、いいんですけれどもね。
 ウィリアム・クラインという方は非常にユニークなキャリアをお持ちの方で、アメリカに生まれて若い頃に兵士としてフランスに駐留し、除隊後もそのままフランスにとどまり、フェルナン・レジェに師事して絵画を学び、それが著名なファッション写真家となるのだけれども、56年にアーティスティックな写真集『ニューヨーク』を刊行。このエポックメイキングな写真集につづいて『ローマ』『モスクワ』『東京』の都市シリーズを撮り、そのあと、このファッション業界に「あっかんべぇ~」するような、この『ポリー・マグーお前は誰だ?』を、映画作品として完成させるのね。

 わたしは当時はこのわい雑なコラージュ的演出と、一面でファッショナブルな「カッコいい」映像とのはざまで夢中になったわけだけれども、今こうやって久しぶりに観直してみると、そのいろいろな構造の面白さに、やはりあらためて「これは傑作だ」と思うのだった。

 ひとつには、ファッション業界の「バックステージもの」としての映像の面白さと、「ファッション批評家」への痛烈な皮肉があり、さらに「お前は誰だ?」という設問から、まあ寺山修司の映像作品的なアヴァンギャルドなドキュメンタリー的な視点もある。そして、大きなストーリーの流れとして、たとえばグリム童話的な「おとぎ話」的な枠があり、その顛末がまさに皮肉たっぷりなものにもなっている(わたしも先日まで「グリム童話」を通して読んでいたわけで、こういう「皮肉たっぷり」なものもあったわけだ)。

 それぞれのキャラクター造形も面白く、ポリー・マグーを演じたドロシー・マクゴヴァンなどはまさにこの作品のキャラクターのような失墜を経験したらしいのだが、魅力的なキャラクターであったことは否定できない。さらに、サミー・フレイが演じる「王子さま」が、まさに今でいえば「オタク」的な私生活をおくっていることなど、この時代としては「先見の明」だろうか。テレビ・ディレクターのジャン・ロシュフォールは「主演男優賞」的な熱演だし、「王子」の部下のふたりの男のこっけいさは、カフカの『城』や『審判』に登場する主人公の部下を思わせられる。

 美術や音楽(ミシェル・ルグラン)など語りたいことは多いし、ラストのクレジットのトポールの長尺のイラストもすばらしい!
 なんだか興味深い点を列挙するだけに終わってしまったが、そういうことではなく、もっともっと奥深い、今の時代を照射するような「傑作」だとは思う。また観よう。