ワニ狩り連絡帳2

前世のワニ狩りの楽しい思い出。ネコのニェネントとの暮らし。

『柔らかい肌』(1964) フランソワ・トリュフォー:監督

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 トリュフォーの4本目の長編映画だけれども、このときトリュフォーはイギリスで撮る次作の『華氏451』の準備に取り掛かっていたのが、「すぐには撮り始められない」とわかり、低予算でこの『柔らかい肌』を先に撮ったのだという。
 トリュフォーは1962年にあのヒッチコックとの対談を終えたばかりでもあり、ヒッチコックの演出法を思いっきりこの作品に注ぎ込んだみたいだ。さらにトリュフォーは、1957年に結婚したマドリン・モルゲンシュテルンとこの翌年の1965年には離婚するわけで、そ~んな「個人的事情」がこの『柔らかい肌』にも影を落としたのかもしれない。
 映画のアイディアはトリュフォーが考えていたものだが、あるとき目にした新聞の事件記事で、この作品の結末まで決めたようだ。

 物語はよくある「不倫ドラマ」で、著名な文芸批評家のピエール・ラシュネー(ジャン・ドサイー)は、講演旅行のために乗った旅客機の若い客室乗務員のニコル(フランソワーズ・ドルレアック)に惹かれ、ホテルが同じだったことから彼女をデートに誘い、急速に深い仲になってしまうのだ。ピエールには妻(ネリー・ベネデッティ)も娘もあって幸せな日々を送っていたのだが、以降秘密を隠した二重生活を送るようになる。
 ニコルとゆっくり会うためにと、地方都市のランスでの講演を引き受けてニコルを同行、同じホテルに泊まろうとするのだが、講演主催者や地方の名士らとの会合、会食が準備され、ニコルといっしょになる時間もないのだった。
 翌日はパリに帰らず、ようやっとニコルとの水入らずの一日を過ごしたのだったが、その翌朝に妻に「まだランスで、夜には帰る」と電話するのだが、妻は「昨夜ランスに電話を入れ、あなたはすでにパリに発ったと言われたわ」ということ。
 帰宅したピエールはさいごまでニコルのことはごまかしつづけようとするのだが、妻は「もう別れましょう。出て行って!」と突っぱねる。
 「そうかい」と家を出たピエールは、事務所に宿泊しながらせっせとニコルと暮らす新しいアパートを探し始め、そんなアパートにニコルを連れて行く。
 勝手に「いっしょになる」と決めて、相談もなく話を進めるピエールには、ニコルも引いてしまうわけだ。一方ピエールの妻は、ピエールの上着のポケットから写真現像の引換証を見つけてしまう。それはランスに行ったとき、ピエールがニコルといっしょに撮った写真なのだ。続きもあるけれど、ストーリー紹介はここまで。

 何といっても、このピエールの「うぶ」な性格というか、おそらくは恋愛経験もそんなに豊富ではなかったのだろうし、自分よりもずっと若い女性と「いい関係」になって、ただ舞い上がっている。一方で外でもニコルとの関係を必死になって隠し、ランスに行ったときにはこっけいな振舞いになってしまう。
 そういった、ピエールの「日常において隠したいことがある」ということを、まるでヒッチコック映画でのスパイの行動を追うように、サスペンス・タッチを交えて撮って行く(その他でも、例えば冒頭に飛行機の搭乗時間に間に合うかどうか、というようなこともサスペンス・タッチになるのだが)。
 それぞれ、登場人物の目線の動きでの演出ということもあり、エレヴェーターでニコルといっしょになったピエールの目線、エレヴェーターの動きなど印象に残ったし、ランスでニコルを外に待たせてピエールが関係者と会話するとき、ピエールはどうしても建物の外に目をやってしまい、建物のドアのガラス窓にニコルの姿が映る場面も良かった。

 ピエールとニコルのラヴシーンの描写は「つつましやか」というか、もちろんベッドシーンなどはないのだが、ただピエールが眠っているニコルのストッキングを脱がせるというシーンが、ほのかなエロティシズムもかもし出してはいた。

 撮影監督はラウール・クタールで、やはり手持ちカメラでの移動撮影が多いのだけれども、ゴダールの『勝手にしやがれ』での躁的な撮影と比べると落ち着いた品格もある撮影で、監督が替わるとここまでに変化があるのだなあとも思った。

 公開当時フランスでは客の入りも悪かったそうだが、ストーリー自体が「ありふれた話」みたいで、「人を惹きつけるような魅力」が感じられなかったせいもあるだろうか。
 若くして交通事故で亡くなってしまったフランソワーズ・ドルレアックカトリーヌ・ドヌーヴの姉)は出演作品も多くはないのだけれども、この作品あたりが「代表作」になるだろうか。