ワニ狩り連絡帳2

前世のワニ狩りの楽しい思い出。ネコのニェネントとの暮らし。

『恋のエチュード』(1971) フランソワ・トリュフォー:監督

恋のエチュード [DVD]

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  • ジャン=ピエール・レオー
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 原作はアンリ=ピエール・ロシェの『二人の英国女性と大陸』(映画の原題もこれ)という小説で、このアンリ=ピエール・ロシェという人は『突然炎のごとく』の原作者でもあった。
 彼は本来画商であり美術収集家であり、20世紀初めに多くの著名美術作家と親交を結んでいたという。そんな彼は晩年に2つの「自伝的」小説を書き、それが『ジュールとジム突然炎のごとく)』と『二人の英国女性と大陸(恋のエチュード)』で、双方ともトリュフォーによって映画化された。さらにアンリは自分の女性遍歴を綴った手帳を死の前にトリュフォーに委ね、トリュフォーはその手帳を『恋愛日記』(1977)として映画化したのだという。つまり、トリュフォーアンリ=ピエール・ロシェの「全作品」を映画化したのだ、ともいえる。いったいトリュフォーアンリ=ピエール・ロシェの何に、そこまで惚れ込んでしまったのだろうか? 考えてみる価値はありそうにも思う(わたしはやらないけれども)。

 この『恋のエチュード』に、主人公が自分の置かれた姉妹のあいだというシチュエーションを男女を逆にして、『ジュールとジム』に相当する小説を出版する経緯も描かれているわけで、つまりおそらくはこの『恋のエチュード』の方が、著者のリアルな自伝に近いのだろうか。主人公のクロード(ジャン=ピエール・レオ)が美術関係の仕事をしていることが描かれてもいたし。
 男女を逆にして書かれたのが『ジュールとジム突然炎のごとく)』だったとすると、映画のカトリーヌ(ジャンヌ・モロー)こそが著者のアンリ=ピエール・ロシェの「写し絵」なのかと思うが、彼女がこの映画『恋のエチュード』の主人公クロードとの共通項があるとも思えない。
 映画『突然炎のごとく』でのカトリーヌは、その奔放な生き方で観客の共感を得て映画もヒットしたのだろうけれども、この『恋のエチュード』のクロードは、前半は付き合った姉妹の姉のアン(キカ・マーカム)の思惑に振り回され、彼女が思うがままに妹のミュリエル(スティシー・テンデター)を恋するようになり、後半ではミュリエルにまるで「捨て駒」のように扱われ(このあたりは映画の読み方にかかわるので、一概にはいえないことだけれども)、いったい、自分が何を欲しているのかも読み取れない男性のようにみえる。そういうところでは『突然炎のごとく』のカトリーヌの「真逆」ともいえる(それもまた、作者のアンリ=ピエール・ロシェの意図だったのか?)。

 わたしは恋愛についてまったく疎い人間というか、人々、とりわけ男と女の関係を「恋愛」という翻訳機で解明しようとする姿勢には距離を取るしかない(その「翻訳機」を持っていない)。この映画の中でそんな恋愛の機微が描かれているのかどうかわからないけれども、ものすごく乱暴に単純化して観ると、主人公のクロードはマザコンで優柔不断のおぼっちゃまに見えるし、アンにせよミュリエルにせよ自分の都合をクロードにぶっつけているだけで、わたしにはそれが「恋愛」だとは思えない。

 イギリスのウェールズだという、アンとミュリエルの住む「ブラウン家」、そして隣の「フリント家」あたりの海に面して緑に包まれた景色は美しいのだけれども、実はフランスのノルマンディーでの撮影で、これはトリュフォーが『華氏451』の撮影以来イギリスにはうんざりしていたせいだとWikipediaに書かれていて、読んでニッコリしてしまった(みていても「イギリスなら、海の方角は逆じゃないの?」とは思っていたが)。
 しかしネストール・アルメンドロスの撮影は美しかったし、ジョルジュ・ドルリューの音楽も、甘美で素晴らしかった。