ヒッチコック生誕100周年を記念して制作されたらしく、ヒッチコック自身の撮った映像など多くのプライヴェート映像を含む、映画人としてのヒッチコックを追ったドキュメンタリー。原題は「Dial H for Hitchcock, The Genius Behind The Showman」。このYouTubeにアップされていたものでは吹き替えられていたが、全体のナレーションはケヴィン・スペイシーで、その他ゲストの映画人らは非常に豪華。
俳優では『逃走迷路』の悪役のノーマン・ロイド、そしてジャネット・リー、ティッピ・ヘドレン、テレサ・ライト、それにヒッチコックの娘のパトリシア・ヒッチコックなど。
スタッフは『恐喝/ゆすり』の撮影助手ロナルド・ニーム、『サイコ』の脚本ジョゼフ・ステファーノ、『裏窓』の脚本ジョン・マイケル・ヘイズ、『サイコ』広報ハーブ・ステインバーグら。映画監督ではロバート・アルトマン、ピーター・ボクダノヴィッチ、ブライアン・デ・パルマ、ウェス・クレイヴン、ブライアン・シンガー、カーティス・ハンソン、ジョナサン・デミらが出演し、映画撮影の裏話や公開時の一般の反応、今の視点からの感想などを語ってくれる。
ヒッチコック映画の映像にかぶさって「人間はみんなワナにはまっていてそこから逃げられない。どんなに暴れてみてもお互いを傷つけ合うだけ。一歩も進めないんだ」という『サイコ』でのアンソニー・パーキンスのセリフがオーヴァーラップされ、「この言葉こそヒッチコックの映画の説明ではないか」と思わせられるし、「恐怖を植え付ける場所は、観客の心であってスクリーン上ではない」というヒッチコックの言葉も紹介される。
観終わってけっきょく、ヒッチコックのプライヴェート映像や写真などに惹かれた印象もあるが、ヒッチコックの映画人としての人生、ヒッチコックの演出の秘密も手際よく紹介された感じでもあった。彼が初めてアメリカに渡ったときのプロデューサー、デヴィッド・O・セルズニックとの仕事が困難だったこと、そして彼の妻のアルマの生涯にわたる大きな貢献も語られていたが、1999年製作なのに『マーニー』までしか語られていないのはちょっと残念(この作品、海外でもDVDにはなっていないようだ)。