ワニ狩り連絡帳2

前世のワニ狩りの楽しい思い出。ネコのニェネントとの暮らし。

『アルゴ』(2012) ベン・アフレック:監督

 この「イラン・アメリカ大使館人質事件」については、「そんなこともあったような」という記憶しかないけれども、この映画で描かれるのは、アメリカ大使館がイランの反米デモ隊に占拠される前に、そのアメリカ大使館から脱出して近くのカナダ大使公邸にかくまわれていた6人の救出劇。わたしはこの話はまったく知らなかった、というか記憶には残っていなかった。これはイランのパーレビ国王が失脚してアメリカへ逃げ、イランではホメイニ師が実権を握ることからイラン国内で「反米」の機運が高まったことによる。

 この1979年、アメリカ大使館の人質が解放されるには1年以上の長い時間がかかるのだが、このカナダ大使公邸に逃げた6人のアメリカ人はイランの反米メンバーの把握するところになく、数週間にわたって外に出ないで解決を待っていたわけだ。カナダ大使はカナダ政府にこのことを伝え、カナダ政府はアメリカに「救出」を依頼する。
 これを受けたのがCIAの秘密工作員トニー・メンデス(ベン・アフレック~彼はこの映画のプロデューサーであり、監督もやってのけたのだ~)で、そのトニーが考え出した救出案というのが、ちょうどテレビで放映されていた『猿の惑星』を見てのひらめきで、ハリウッドの映画人が『アルゴ』というSF映画を撮ろうとしていて、地形的にそのSFにお似合いのイラン国内でロケハンをする、それでアメリカ大使館員をロケハンスタッフにして連れ帰るという、ある意味「荒唐無稽」な作戦だったのよ。コレが「現実」に行われて、しかも成功した作戦だというのだから、まさに「事実は小説よりも、いや、映画よりも奇なり」という感じである。
 まずトニーはハリウッドに映画『アルゴ』製作事務所をでっち上げ、現実の『猿の惑星(続篇)』のメイクアップ・アーティストのジョン・チェンバースジョン・グッドマン)と連絡を取り、プロデューサーのレスター・シーゲル(アラン・アーキン)とタッグを組んでいろいろと背後にリアリティを持たせるのである(ジョン・チェンバースは実在の人物だけれども、レスター・シーゲルという人物は調べてもわからなかった)。

 もちろんCIA上司や政府高官は「そ~んなバカげたことを!」という空気なのだが、何とかこの「アルゴ作戦」の実現となり、トニー・メンデスは6人分の偽パスポートと映画製作資料を持ち、イランへと飛び立つのである。
 トニーはカナダ大使公邸に着き、そこにかくまわれていた6人のアメリカ大使館員に計画を話す。ある夫妻の大使館員は「それは出来ない」と反発するのだけれども、最終的に全員が同意し、それぞれの役割になりきるために猛勉強するのである。

 映画冒頭の、ドキュメント風のイランでの「反米」空気の盛り上がりの描写ははっきり言って「下手くそ演出」で、「やっぱスピルバーグ監督は力量あったなあ」と思いもしたのだけれども、これがベン・アフレック監督もよく知っているハリウッド内部の描写になると「勝手知ったる」というところで、俄然楽しませてくれるようになる。しかもココで登場するのがジョン・グッドマンであり、おまけにアラン・アーキンなのであるからうれしくなってしまう。わたしは「もうアラン・アーキンなんか亡くなられたのではないのか?」な~んて失礼なことを思ってしまったが、どっこい、この映画から十年経った今も、アラン・アーキン御大はお元気なのである。
 まあせっかくこうやってジョン・グッドマンアラン・アーキンとの楽しい共演を観れたのだから、もうちょっとこの「ハリウッド」シーンをいっぱいやってくれても良かった気がするけれども。

 イランでは『アルゴ』の映画スタッフになりきったトニー、プラス6人が脱出前日にイランの市街地にロケハンなんかに出かけたりもして、「何もそんなわざわざ危険なことやらなくってもいいじゃないか」とも思わせられるのだが(現実にはやはり、この「ロケハン」は行われていなかったようだ)、まあこの作品はじっさいに「ハリウッド映画」でもあるわけだから、それなりの「危機」などは観客サーヴィスで演出すべきなのだったろう。
 帰国当日も、アメリカでは唐突に「計画中止指令」も出されるし、泡を食ったトニーが何とか計画遂行に舵を切らせるけれども、空港の搭乗前にはあれこれと警備隊に疑いを持たれるのだが、さいしょは「こんな計画はムリだ」と言っていた大使館員がしっかり「映画スタッフ」になりきって難を逃れるし、警備隊がハリウッドへかける「ホントにこんな映画あるのか?」という国際電話にも、危うくジョン・グッドマンアラン・アーキンも間に合うのだった。

 ‥‥エンド・クレジットのときに、そもそものアメリカ大使館員も解放されたことを語り、トニーや大使館員の実際の写真を見せてくれるのはいいのだけれども、アメリカに渡ったパーレビ国王がその後どうなったのかとか、ホメイニ師以後のイランがどうなったのかとか、多少なりともコメントを入れても良かったのではないかとは思うのだった。