ワニ狩り連絡帳2

前世のワニ狩りの楽しい思い出。ネコのニェネントとの暮らし。

『仁義』(1970) ジャン=ピエール・メルヴィル:脚本・監督

 メルヴィルは偉大な映画監督だろうと思う。しかし、わたしは中学生の頃だったかに映画館で、アラン・ドロンの『サムライ』を観たっきりであった。それはいかにも情けない話で、この「U-NEXT」ではメルヴィルの代表作などがけっこう観られるようなので、この際観ておきたい。まずは「メルヴィルの最高傑作」ともいわれる『仁義』を観るのだ。
 タイトルの『仁義』というのは当然日本でつけられたもので、原題は「Le Cercle Rouge」(赤い輪)という。これは映画冒頭の字幕で紹介されるゴータマ・シッダールタの言葉「人は それと知れずに 再会する時 各々に何が起ころうが 異なる道を進もうが 赤い輪の中で出会うことが 必然である」から取られたものである。

 アラン・ドロンイヴ・モンタン、そしてジャン・マリア・ヴォロンテの3人が組み、厳重に防犯網の張られた深夜の貴金属店を襲うのである。この3人が集まる過程がまず面白いのだった。

 コレイ(アラン・ドロン)は5年の刑期を終えて仮出所し、昔の仲間のところへ行って彼を脅して金をせしめる。コレイがレストランにいるとき、護送列車から脱走して来たヴォ―ゲル(ジャン・マリア・ヴォロンテ)がコレイの車のボンネットの中に隠れる。
 森の中で、コレイを追って来た金を取られた仲間がコレイを捕らえるが、ボンネットのヴォ―ゲルがコレイを助けるのだった。
 コレイは刑務所で看守から持ちかけられた「貴金属店襲撃」の話にヴォ―ゲルを誘う。ヴォ―ゲルは「その計画には射撃の腕の確かな仲間が必要だ」と、元警官のジャンセン(イヴ・モンタン)を誘うわけである。
 ここで、ジャンセンという男が、まずは「アル中」として室内で幻覚に悩まされている男として描かれているのが面白い。しかし電話でその話を持ち込まれたジャンセンは、まずは林でライフルの練習をし、コレイとヴォ―ゲルの前に姿をあらわすときにはヒゲも剃りこぎれいにし、スーツ姿もキメて登場するのである。

 決行の日、防犯カメラも装備され、現代の防犯設備と同様な防犯網をかいくぐるには、かなり離れた場所から「ねじ穴」の大きさの的の中心を射抜き、防犯装置の電源を切らなければならない。ジャンセンはこのために銃を支える三脚も持ち込んでいたのだが、三脚から狙いをつけようとしていたジャンセンは、さいごには三脚からライフルを外して手持ちで的を射抜くのである。カッコいい!
 この「決行」は、映画の上でも30分以上の時間が割かれているが、その間登場人物らのセリフはほとんどなく、つまり30分間、息詰まるようなほとんど無音のシーンが続く(この略奪場面は防犯ヴィデオに記録され、あとで警察の連中が眺めるシーンになるのだが、そこで犯行の様子を見る警察の連中も、「無口だな」などと言うのである。

 せっかく略奪に成功した3人だが、盗んだ宝石類があまりに高額で大きく報道されたことから、故買屋が買い渋ることになる。そこで「買ってもいい」と返事をした故買屋は、実は警察のワナだった。

 Wikipediaでみると、この作品は140分の尺だと書かれているが、日本では20分カットされた版が上映されたという。興行的に日本ではヒットしなかったというが、それは「20分のカット」のせいというよりも、『仁義』というやくざ映画のようなタイトルが、アラン・ドロンイヴ・モンタンの出演する映画にマッチしなかったからではないのか? わたしはそう思う。
 ただ、今日「U-NEXT」で観たモノは123分しかないヴァージョンで、つまり「20分カット」ヴァージョンではないかと思える。この「カット版」で何がわからないかというと、終盤の故買屋が「警察のワナ」だということがわからず、唐突にヴォ―ゲルが「ワナだ!」と言うことでそう思うだけなのだ。
 いちおう国内DVDでは「140分」のヴァージョンでもリリースされているようなので、やはりそちらで観てみたい。

 わたしの感覚では、この作品の「主人公」はジャンセンで、「宝石略奪」が成功したあと、アル中から脱したことを暗示させながら「わたしは分け前はいらない」と語り、それでも「責任」から、コレイとヴォ―ゲルが故買屋とが会うときに、その外で安全を確認しようとするのだ。そして、そのために命を失う。
 わたしは映画を観て、あまり感覚的に「カッコいい!」とか思うことの少ない人間だけれども、この『仁義』は、ひたすら「カッコいい!」と思うだけ、だったようだ。