ワニ狩り連絡帳2

前世のワニ狩りの楽しい思い出。ネコのニェネントとの暮らし。

『アメリカの友人』(1977) ヴィム・ヴェンダース:監督・脚本 ロビー・ミューラー:撮影 パトリシア・ハイスミス:原作

 先日亡くなられたブルーノ・ガンツ追悼のつもりで観たのだが、この日記に書いているように、先に原作本を読んでから観ることにしたもの。
 ブルーノ・ガンツは原作のジョナサン役で出演しているが、映画では彼はフランス人という設定になっていて(原作ではイギリス出身)、ヨナタンという名前になっている。また、肝心のトム・リプリーを演じるのはデニス・ホッパーで、なんとカウボーイハットを被って登場したりする。その他、原作でのリーヴスという男を『いとこ同士』のジェラール・ブランが演じ、ちょい役でニコラス・レイサミュエル・フラーダニエル・シュミットなどという<映画監督>が出演している。

 映画は、ブルーノ・ガンツの内面をじっくりと見つめたていねいなつくりで、彼が自分の額縁の店でキンクスの"There's too much on my mind"を何度か(正確には3回)歌うシーンとか、最高なのである(特に3回目!)。


Too Much on My Mind - The Kinks

 しかし、そのために時間をかけすぎたというか、さいしょの地下鉄での<殺し>の場面までに1時間、映画の半分を使ってしまう。第二の、列車内での<殺し>もいいのだけれども、つまりそのために、原作でいえばジョナサンと妻のカミーユとの関係の変化が捉えられなくなり、実はこの原作はすべて、トム・リプリーとジョナサン・トレヴァニーとの(たがいに妻がありながらの)<不倫関係>の物語なのだということが、すべてオミットされてしまった。
 これはあまりに残念なことで、あのルネ・クレマンが、『太陽がいっぱい』ではみごとにトム・リプリーの<同性愛指向>を描いていただけに、もったいない。

 つまり、この映画でトム・リプリーを演じたデニス・ホッパーは単なる「ちょっと<情>のある<ちょい悪オヤジ>」ぐらいのもので、観るものにインパクトを与える存在ではない。だいたい「カウボーイハットなんかかぶるなよ!」というところはあるのだけれども、そこでわたしは、「では、トム・リプリーはどんな役者が演じたらいいだろうか?」みたいなことを考えてしまった。
 わたしの記憶では、何かの映画でジョン・マルコヴィッチがトム・リプリーを演じていたような記憶があって、「それはいいのではないか」と思うのだが、むむ、もうちょっと、アラン・ドロン的な色気はほしい。もちろん『太陽がいっぱい』のアラン・ドロンは適役なのだけれども、あれは「迷いながらも<悪事>に足を踏み入れる」というキャラクターの見事さ、でもあったわけで、この『アメリカの友人』での、「悪事にも手を染めることをいとわない」という<セレブリティー>的な存在でもあるリプリーを演じられる俳優は誰か?
 あらためていえば、アラン・ドロンだっていつまでもリプリー役はこなせるだろうけれども、やっぱりもうちょっとアクの強い、アメリカの男優がいい。それで考えたら、(まったくわたしの私見だけれども)トム・クルーズがいいんじゃないかと思ったりする。この俳優、イイ男なんだけれども、同時にどこか「いかがわしさ」みたいなものを醸し出す、そんじょそこらにはいない俳優ではないかと思う。いや、レオナルド・ディカプリオにも多少はそういうところはあるのだけれども、それは過去にマット・ディモンがリプリーを演じた<ミスマッチ>に近いものを感じさせられる。
 もう今からはムリなことだけれども、いちど、トム・クルーズの演じるトム・リプリーを観てみたかった気がする。

 この作品のことから外れてしまったが、このヴェンダースの『アメリカの友人』、特に前半の、ブルーノ・ガンツの内面をのぞきながらのサスペンスフルな演出は見ごたえがあったと思う。カッコいい、スタイリッシュな映像も記憶に残したいのだが、この撮影監督は偶然にも、このあいだ観た『ダンサー・イン・ザ・ダーク』の撮影の、ロビー・ミューラーなのだった。