前作『選挙』(2007)では川崎市議選で自民党の「落下傘候補」として立候補して当選した山内和彦氏。その後2007年には任期満了で議員を退任し、そのときの次期選挙には立候補しなかったのだけれども、2011年、「東日本大震災~東電原発事故」直後の「統一地方選挙」の際、自粛ムードのもとで他の候補者たちが原発問題を語らないことに憤りを覚え、「無所属」での立候補を決意するのだった。
前回の「自民党公認」としての選挙のやり方を「全否定」することとなった山内氏は、「選挙事務所なし・選挙カーなし」で、運動員といえるのは山内氏の夫人ただひとりという、ただ「脱原発」を訴える「選挙運動」を始めるのだ。
映画は車で選挙区を巡回し、剥がれかけた自分の選挙ポスターを補修して行く姿から始まる。映画を撮る想田氏は山内氏の車に乗り込んでの「密着取材」である。
何でも選挙管理委員会からはポスターが剥がれかかったりしていると「補修してください」との連絡があるらしい。車を乗り回しても、まったく「選挙運動」らしいことは行わない山内氏。普段から立候補のタスキも肩にかけてもいない。そこには前回の選挙のやり方への反省があり、「名前を連呼して名前を覚えてもらう」なんて無意味だし、道行く人にムリヤリ握手してもそれで自分に「脈のある人」と「脈のない人」の区別ぐらいはつくけれども、やはり無意味という考え。選挙チラシもつくらず、政策はポスターの中に刷り込んである(選挙演説は選挙運動最終日にやる予定)。選挙経費はポスター印刷代などの8万円ぐらいしかかかっていないという。「エコ選挙」。
今回もいつもの想田監督作品のように、街角を行き交うネコの姿が収められていたのだけれども、いつもとちょっと違うのは、想田監督自身の声がよく聞かれるし、車を洗車する場面でいっしゅんだけ、車のなかでカメラを構える想田監督の姿が見られるシーンがあった。車のなかではよく想田監督と山内氏とが対話しているし、ちょっと興味深いシーンで、街頭で選挙運動をしている他の候補者を撮影していたとき、その候補者から「撮影しないでくれ」とクレームが入り、「選挙運動は公的なものだから撮影して問題はないはず」と抗議し、けっこう想田監督も「熱く」なってしまう場面があったりした。それでも想田監督は撮影をつづけるのだが、撮影を打ち切ったあとの想田監督のカメラは(興奮からか)揺れていたのだった。
これは他の候補者にカメラを向けて聞いていたことだけれども、街頭で道行く人にあいさつはしても、そこで自分の政策を語ったり選挙チラシを配ることは「公職選挙法」に抵触するという(いやいや、選挙チラシはOKでしょう?って思うけど)。なかなかそのあたり、候補者のなかでも認識が異なるみたいだ(現在に至る問題?)。
有権者へ出す選挙ハガキを閉局ギリギリ時間に郵便局へ夫人とお子さんといっしょに持ち込み、まだ書き終えていない分を郵便局のなかで書く。そのあいだ、飽いたお子さんは郵便局内の自動販売機あたりとかで走り回って遊ぶ。その姿を捉えるカメラ。ついには転んで泣き出してしまう。
親切な郵便局員さんのおかげで無事に出し終えるが、「子供が映ってるシーンはいいよね」ということを越えて、けっこう印象的なシークエンスだった。
ついに投票日前日、選挙運動最終日。山内候補は選挙運動期間中ただ一度の「街頭演説」を駅前で行う。なんと白い「放射能防護服」と「防護マスク」を身につけての演説。とちゅうで他の候補の演説とバッティングするからと駅の反対側に移動して演説するが、うむ、だ~れも立ち止まって聴こうとはしないようだ。
カメラがそのまま山内氏から後退して行き、山内氏の演説も聴き取れなくなってきて画面は暗転、開票結果テキストが映し出される。山内氏は下から2番目、ブービー賞の落選だった。
映画のなかでの山内氏からはけっこう当選するつもりいっぱいの発言も聞かれたけれども、この結果をどう捉えただろうか。まあ「落選しても8万円失うだけ」とは言っていたが。
前作『選挙』では自民党公認の候補として、何から何まで自民党の選挙事務所の人の言う通りに行動していた山内氏だったけれども、この『選挙2』では「無所属候補」としてすべて自分の意志で、まさにインディペンデントに行動している。彼のこの選挙へのモティヴェーションは、震災後の日本の進路への「怒り」だ。
彼は先に「自民党公認」で選挙を体験したからこそ、この選挙に「自分」をぶっつけてみようと考えたのだろうが、その行動が「無意味」ではなかったことは、この『選挙2』が証明しているではないか。