ワニ狩り連絡帳2

前世のワニ狩りの楽しい思い出。ネコのニェネントとの暮らし。

『三大怪獣 地球最大の決戦』(1964) 円谷英二:特技監督 本多猪四郎:監督


 ついに、「キングギドラ」が登場するのだ。わたしの考えではこの「キングギドラ」、世界の怪獣映画の中でも最高の造形で、そのオリジナリティーからも、もはや「芸術」の域に達しているとも考えてしまう。
 日本人からみるとこの「3頭2尾2翼」の姿、当然「八岐大蛇(ヤマタノオロチ)」から来ているのだろうと思うが、実のところその造形にはさまざまな説が存在する。ただ「キングギドラ」のネーミングの「ギドラ」は、ギリシャ神話の九頭の怪物「ヒドラ」から来ているそうで、「ヒドラ」と「八岐大蛇」との影響は強いのだろう。
 この「キングギドラ」の誕生に関しては、スタッフは新しい怪獣を作り出すに関して、今までのように「太古の巨大生物の生き残り」(ゴジララドンなど)、「既存の生物の巨大化」(モスラ)などというのではない怪獣を模索し、「宇宙から飛来した怪獣」という、SF要素を加味した新機軸を考案したのだった。

 キングギドラの造形は、ゴジラのデザインも担当した美術監督渡辺明氏によるものだが、完成した着ぐるみ怪獣の操作はめっちゃ大変だったらしい(これは充分に想像できることだが)。いちおう着ぐるみの中にはスーツアクターが入ったが、アクターは基本は着ぐるみ内の棒につかまっているだけ。そして三つの首の操作に各1人、翼に1人、尾に1~2人と、最低6人の操演者が必要で、その撮影では首同士がすぐに絡まってしまうし、まるでサーカスのアクロバット演技のようだったという。現代のように「CG画像」によるものではなく、現実に撮らなくてはならなかったわけだしね。お疲れさまでした。

 さてこの作品、1964年の暮れに公開される予定だった黒澤明監督の『赤ひげ』の撮影が長引いたため、その穴埋めの正月興行用に急きょ製作されたのだという。
 その割には先の「キングギドラ」の造形、特撮の完成度と、けっこう充実した作品となっていると思う。これは『モスラ対ゴジラ』の撮影小道具、セットなどが使いまわし出来たということもあるのだろう。

 キングギドラが宇宙から飛来したという設定ゆえか、ストーリーは相当にSF寄りとなっていて、「キングギドラに滅亡された金星人」から地球へのメッセージがフィーチャーされている。

 物語は、暗殺者に狙われているセルジナ公国のサルノ王女(若林映子だ!)の来日への旅から始まるのだが、サルノ王女の乗る旅客機は暗殺者らによって爆破されて墜落する。しかしサルノ王女はその前に旅客機の墜落を予知し、先に旅客機から飛び下りていたのだった。
 その頃、黒部峡谷には巨大な隕石が落下し、科学者らが調査を始めていた。
 記憶喪失状態となったサルノ王女は衣服も代えて日本にあらわれ、自ら「金星人」と称して街頭で人々に「地球の危機」を説くのだった。サルノ王女の予言通り、阿蘇山からラドンが復活するし、ゴジラもまたあらわれ、互いに戦いながら各地を荒らしまわるのだった。
 なぜかテレビ局の招へいで来日していたインファント島の小美人も、いつしかサルノ王女と合流する。
 そしてついにはサルノ王女の予言通りに、黒部峡谷の隕石から「かつて金星を滅亡させた」というキングギドラが姿をあらわすのだった。「地球もまた、かつての金星のように滅亡するしかないのか」というところだが、小美人は「モスラゴジラ、そしてラドンとが力を合わせれば、キングギドラを撃退できるでしょう」と語り、モスラを日本に呼び寄せるのでありました。

 いったいなぜ、そのサルノ王女が「金星人」と名乗るようになって「予言能力」を持ったかというと、5000年前にキングギドラによって滅ぼされて金星から逃亡した一部の金星人が地球に逃れ、地球人と同化してしまっていたということで、サルノ王女は何らかの原因で、自らの内なる「金星人」のDNAか何かがとつぜんに表面化したらしいのだ。
 怪獣らと並行する「人間ドラマ」の中で、サルノ王女が暗殺グループに狙われつづけることと「金星人」とは無関係だし、怪獣らが何をやろうが関係ないのだけれども、暗殺グループらは例によって、キングギドラが起こした崖崩れで全滅してしまうのだ。
 そして暗殺グループに狙撃されて頭に傷を負ったサルノ王女は、その傷のショックで記憶を取り戻し、まるで『ローマの休日』のようなエンディングになだれ込むのではあった。

 だいたい、インファント島の小美人たち、日本のテレビ局なんかのチンケな番組に招聘されて、それで来日しちゃうというのはショックだ。どんだけ軽いんだ。
 それで怪獣たちの戦い、まずはゴジララドンとが戦うのだが、ラドンは「放射熱線」とかの派手な武器の持ち合わせがないので、くちばしでゴジラの頭をつっつく戦法。これは痛そうだ。岩の投げ合いのドッジボール戦はさらに擬人化が進み、けっこうシラケてしまう。ゴジラのデザインはさらに目が大きくなって飛び出し、白目と黒目もいよいよはっきりとなり、セサミストリートのぬいぐるみのようになってしまった感がある。
 今回市街地の破壊はキングギドラ一頭が専門で請け負い、間を置かずに横浜のマリンタワー、東京の東京タワーなどを破壊する。これはインパクトあるのだが、市街地の建物を破壊するシーンはあまりなかった。そのあとの、鳥居越しに見られる破壊シーンはかなり迫力があったが。
 この作品ではやたらと避難する人たちの行列が何度も何度も写されて、ちょっとばかり「また避難シーンかよ」という感じは受けた。

 ついにはモスラゴジララドンを説得して「一緒にキングギドラに立ち向かおう」という「怪獣サミット」になるのだが、ここで「怪獣の擬人化」も最高潮となり、その会議を聞いていた小美人が通訳をしてくれる。ゴジラは「いつも人間はオレたちにいじわるばかりしているではないか」とさいしょのうちは人間の手助けを拒み、ここで「ラドンもそうだそうだと言っています」との、屈指の名セリフも飛び出す。
 本多猪四郎監督はこういう「擬人化」には反対だったらしいが、円谷特撮監督はこういう路線が好みだったらしい。

 けっきょく、三者協力してキングギドラと戦うが、ラドンが自分の背中にモスラを乗せて戦うのは「ほのぼの」。やっぱりモスラの「繭糸」攻撃が最強だったようで、キングギドラは空高く逃げ出して行くのだ。
 ラストには、海をインファント島目指して帰って行くモスラを、ゴジララドンが並んで見送るショットがあるけれども、あのあとゴジララドンは友情をはぐくむことになるのだろうか?