ワニ狩り連絡帳2

前世のワニ狩りの楽しい思い出。ネコのニェネントとの暮らし。

『妻二人』(1967)増村保造:監督

 この映画、原作はパトリック・クェンティンのミステリー、『二人の妻をもつ男』で、それを新藤兼人が脚色し、増村保造が監督した作品。出演は若尾文子プラス、なんと岡田茉莉子。この時期岡田茉莉子は事実上「フリー」という立場で、それゆえに実現した共演なのだろう。もちろん、この2人の共演はこの作品のみのことである。(ちょっと興味本位で、若尾文子岡田茉莉子とはどちらが年上なのだろうと調べたら、お二人とも1933年生まれの同い年だった。そしてもちろん、お二人とも今もお元気であられる)。
 そのほか、高橋幸治、伊藤孝雄、そして江波杏子などが出演しているのではあった。

 さて、この映画を観終わってまず思うのは、「妻二人」じゃないじゃん、ということ。若尾文子は現在の高橋幸治の妻ではあるが、岡田茉莉子は過去に高橋幸治の恋人だったことがあるとはいえ、結婚してはいなかったはずである。タイトルに偽りありではないのか。原作のタイトルに引きずられてしまったのか。
 映画はいちおうミステリーで、健三(高橋幸治)は若き日に作家を目指していて、そんな健三を恋人の順子(岡田茉莉子)が支えていたのだが、健三はある大手婦人雑誌社の社長に見込まれて社員となって作家への道は捨て、社長の娘の道子(若尾文子)と結婚している。特に健三が順子と深い関係になるというのではないが、道子のいないときに順子に会ったりはする。ここに今の順子の恋人のちょっと乱暴な小林(伊藤孝雄)というのがいて、これが順子を捨てて道子の妹の利恵(江波杏子)と付き合うようになるのだ。道子は利恵と小林が付き合うことに反対なのだが。
 ある日、銃で撃たれて殺された小林の遺体が、順子も出入りしていた小林のアパートで発見される。その犯行予想時間に順子は道子の不在を知り健三と会っていたというアリバイがあったのだが、そのことを健三は言い出せず、順子は容疑者として逮捕される。

 ま、もっといろいろとややっこしい話もあるのだが、出てくる人物はだいたいみ~んなクズだったりまともでなかったりする中で、順子ひとりが真っ当な人間みたいだ。
 実はこの映画では、時系列を追ってその小林が殺される場面も描かれていて、もうその時点で真犯人は観客にはわかっている。
 しかし、ちょっとネットで原作の『二人の妻をもつ男』のことを調べると、その原作ではずっと小林にあたる人物を殺したのは誰なのかわからずに進行し、ラストに「ちょっとしたどんでん返し」として真犯人がわかる、ということになっているらしい。

 なぜ新藤兼人の脚本がそのあたりを変更してしまったのかと考えたが、どうも途中で警察に道子(若尾文子)が順子(岡田茉莉子)に面会に行くシーンがあるからだろう、と合点がいった。この映画の中で若尾文子岡田茉莉子とがじっさいに会うシーンはここにしかなく、そのストーリーの流れから、おそらく原作にはそういう二人が顔を合わせるシーンはないのだろうと想像がつく。
 つまりこの若尾文子岡田茉莉子との共演作で、二人が顔を合わせる場面がないというわけにはいかないと考えてその場面を作り、したがってその場面を盛り上げるためにも、先に「犯人は誰か?」を観客にわからせる必要があったのではないだろうか。結果として、そのことはこの映画の欠点にはなっていた。
 また、(悪いけれども)高橋幸治の感情をまったく表に出さない演技は、やはり堅苦しく人間味に乏しい道子を演じる若尾文子の演技と相まって(この二人は笑顔すら見せない)、映画自体に感情移入をしにくくしていたように思う。そんな中で、エモーショナルな演技を見せた岡田茉莉子がひとりだけ際立ち、そういう演出だからしょうがないが、この「若尾文子vs岡田茉莉子」という映画、どうしても岡田茉莉子の勝ち、という印象になってしまうのだった(ラストの岡田茉莉子の笑顔が、「ダメ押し」だった)。