ワニ狩り連絡帳2

前世のワニ狩りの楽しい思い出。ネコのニェネントとの暮らし。

『しとやかな獣』(1962)川島雄三:監督

 新藤兼人のオリジナル脚本で、5階建て団地の4階の2DK(らしい)の部屋と、その部屋の前の通路、階段だけで撮り切った作品。室内でもありとあらゆるところにカメラを仕込み、仰角、俯角とさまざまな視点を取っている。出演も10人だけだが、中心になるのはその部屋の住民前田家の父の伊藤雄之助、母の山岡久乃、息子の川畑愛光の3人で、ほぼ出ずっぱり。これに息子の勤務先の芸能プロ社長の高松英郎、その会社の会計の若尾文子らが主に絡む。

 要するに息子は勤め先の芸能プロの金を使い込んでいるわけで、その金が親の生活費にもなっているわけだ。一方若尾文子も前に観た『赤線地帯』でのような役どころで、社長や息子らと関係を持って金を貢がせ、まさに今会社を辞めて旅館を経営しようとしている。

 ま、その他にも登場人物はいるとしても基本的にみ~んな「悪人」で、さいしょっからさいごまで、ず~っと「カネ」をめぐっての争いがつづく。
 そういうところでこの映画、どこを切り取っても金太郎飴(古い比喩だ)のように「カネ」の話ばかりではある。そして演じる役者たちも、つまりはさいしょっからさいごまで「同じ演技」を繰り返す。そのことがわたしには不満というか面白く感じることができず、皆がブラックなコメディとしてこの作品を賞賛するのはわかるのだが、わたしはどうもダメ。
 若尾文子の演技も前に『赤線地帯』でみせてもらった演技だし、他の役者も時に怒鳴るだけのような演技の繰り返しになり、わたしには苦手。
 伊藤雄之助山岡久乃の夫婦の、飄々としながらも図々しい態度の演技こそは楽しかったが、残念ながらこの日の映画は、わたしには「空振り」ではあった。