ワニ狩り連絡帳2

前世のワニ狩りの楽しい思い出。ネコのニェネントとの暮らし。

『女は二度生まれる』(1961)川島雄三:監督

 昨日観た『妻は告白する』と同じ年に公開され、双方に主演した若尾文子は、この2作で多くの女優賞を受賞したわけだった。
 原作は直木賞作家の富田常雄の「小えん日記」で、これを井手俊郎川島雄三が脚色した。
 監督の川島雄三はそれまで松竹、日活、そして東宝といった映画会社のもとで撮ってきたが、この『女は二度生まれる』は、彼が初めて大映で撮った作品。川島監督はこのあと『雁の寺』『しとやかな獣』の2本でまた、大映若尾文子と組んで撮るのだった。

 川島雄三の作品は、わたしは過去に『洲崎パラダイス赤信号』という作品を観ていて、もうほとんどその作品のことは忘れてしまっているとはいえ、「あれはいい作品だったな」という記憶だけは残っている。
 彼の作風についてWikipediaには「独自の喜劇・風俗映画を中心的に、露悪的で含羞に富み、卑俗にしてハイセンスな人間味溢れる数々の作品を発表した」と書かれていて、この『女は二度生まれる』でもまさに、そういう言葉がピッタリのようには思える。
 この人(川島雄三)はもう、毎晩毎晩飲み歩いていらっしゃったらしいのだけれども、そういう自身の体験が、この作品にもしっかり反映しているのではないかと思ってしまう。

 主人公の小えん(若尾文子)は戦災孤児。そして今はいわゆる「枕芸者」で、天真爛漫に客の男たちと夜を過ごしているのだけれども、それでも置屋の近くでよくすれ違う学生の牧(藤巻潤)のことが気にかかったり、客との縁で出会った寿司屋の板前の野崎(フランキー堺)に惹かれ、商売抜きで一夜を過ごしたりもする。野崎はそのあと信州に転居してしまう。
 しかし時は売春防止法施行以後の時代、小えんの置屋も売春がばれて営業停止を食らってしまう。小えんは銀座のバーに勤め始めるが、そこで前の客の筒井(山村聡)にめぐり合い、誘われるまま彼の妾、二号さんになってしまう。
 筒井はやさしい「おとうさん」だし、アパートもあてがってもらって悠々自適の小えんだが、ついつい映画館で知り合った17歳のガキンチョと遊んでしまう。そのさまを筒井の部下にしっかり見られていて、筒井に床に短刀を突きさされ「二度とするな」とこっぴどく叱られる。
 改心しようと誓う小えんだが、そんなときに筒井は十二指腸潰瘍で倒れてしまう。小えんは本妻とかち合わないように病院へ見舞に通って看病するが、筒井は小康状態のあと突然に死んでしまうのだった。
 前の置屋も営業を再開していたので芸者に戻った小えんだが、そんなところに筒井の本妻(山岡久乃)が訪ねて来、それがついにはつかみ合いの大喧嘩になったりする。
 ある座敷で、社会人になった牧が外人らを連れて来ているのに出会い、再会を喜ぶのだが、座敷の取り持ちに牧が小えんに外人の夜の相手を頼んだことを知り、幻滅、憤慨して座敷をあとにする。
 筒井の墓参りをする小えん。墓前で「奥さんをあんな半分キチガイみたいにして、娘さんに悲しい思いをさせ、わたしにこんなくやしい思いをさせるのも、みんなお父さんが悪いんじゃないの」と、墓にお別れを告げる。
 うっぷん晴らしに映画を観に行った小えんはそこでいつかのガキンチョに再会し、前にその子が「信州の山を見たい」と言っていたのを思い出し、いっしょに電車で信州へと行くのだった。電車の中で小えんは幸せそうな野崎の家族に鉢合わせしたり。
 駅に着いた小えんはガキンチョを上高地へ行くバスまで見送り、筒井からもらった腕時計も「時計がないと不便だから」とあげてしまう。自分は12の歳まで暮らしたという長野のおじさんの家へ行くと、駅の待合に一人座るのだった。

 じと~っとしない空気感がすがすがしい。小えんを演じる若尾文子は前半は「な~んも考えてない」みたいにスッコ~ンと抜けているのだけれども(その抜け方がいい!)、終盤、墓参りのあととかはもう、表情も落ち着きを見せ、ガキンチョにもまるでお母さんのように世話をする。その微妙な演じ分けもすばらしいところだった。
 けっきょく、小えんには「おとうさん」みたいでやさしかった筒井も、先日観た『青空娘』のお父さんと同じように、「やさしいようでみんなに迷惑かけていた」男だったのだ。その他、小えんの「お客さん」だった男たちの浅ましさ、いくら枕芸者だといっても女性の思いを無視して「モノ」と見る差別意識とかの醜さが、小えんのすがすがしさの裏で余計に際立って見えるだろうか。そんな中で、小えんはさいごのガキンチョに筒井のかたみの腕時計もあげちゃうし、言ってみれば「夢」を彼の未来に託したのかな。

 筒井のまだ学生の娘役でちょっとだけ出演し、小えんに塩をかけられてしまったのは、前に観た『怪談鬼火の沼』で、一人だけ清純なまま死んでしまった女性役で出演していた女優さんだった。この人はすぐに女優業はやめちゃったみたいだが。

 あと、置屋のあるところの、奥へと伸びた狭い路地での撮影がよかった。白い犬が路地を奥へと駆け抜けて行く。白い犬はもっとあとで、二号さんになった小えんが買い物に出かけるときに抱かれてもいたのだった(もっと小さい犬だったが)。それから、色彩あふれる「酉の市」で、小さんと野崎が熊手を買いに行くシーンの躍動感とか、好きだなあ。これもラストの、駅の待合室で座る小えんを駅の外から捉えたロングショットと、観終わったあとでは対比されるだろうか。