ワニ狩り連絡帳2

前世のワニ狩りの楽しい思い出。ネコのニェネントとの暮らし。

『ストップ・メイキング・センス』(1984) ジョナサン・デミ:監督 トーキング・ヘッズ:出演

   

 今年になってから、この「名作」の4Kリストア版が国内で公開され始め、ようやくウチのとなり駅の映画館でも上映が始まった。それでわたしも、30年ぶりぐらいにこの映画を観たのだった。
 う~ん、やっぱり映画館の外の寒さを忘れて、熱くなってしまった。まさに「史上最高のコンサート映画」で、この映画の前では『ウッドストック』だって「ちょっと違うんだよね」となってしまう。ここにはとにかく、デヴィッド・バーン、そしてトーキング・ヘッズのメンバーによる一夜のコンサートの組み立てと、ジョナサン・デミ監督によるそのコンサートの「記録」とが合体していて、「おそらく将来的にもこれ以上のコンサートの記録は生まれないんじゃないだろうか」という映画になっている、と思う。

 まあもともと、わたしがトーキング・ヘッズの音楽が好きだったということもあると思うけれども、わたしとて彼らのすべてのアルバムを聴いていたわけではないから、映画の中ではわたしの知らない曲もずいぶんと演奏されたわけだけれども、み~んなわたしの耳には「いいよね!」と受け入れられる。
 とにかくは、まずは「一夜のコンサート」としての構成の見事さというものがあるわけで、音的にも視覚的にも工夫を凝らされた89分を堪能するしかない。

 まずはステージを歩いてくるデヴィッド・バーンの足元のアップから始まる映画。ギターを持ったデヴィッド・バーンはラジカセをぶら下げていて、「やあ、テープを持ってきたよ」と語ってラジカセを床に置き、再生させる。録音されたリズム・セクションをバックに、デヴィッドは「Psycho Killer」を歌い始める。この時点でステージ上は奥までむき出しで、何らライヴのための装飾は施されてはいない。
 次の「Heaven」でティナ・ウェイマスのベースが加わり、バックに台に乗ったドラムセットが運び込まれ、次の曲ではドラムスのクリス・フランツが、さらに次の曲ではギターのジェリー・ハリソンが舞台に現れて演奏に加わる。そしてさらにバック・コーラスの2人、サポート・メンバーのキーボード、パーカッション、ギターが加わることになる。
 この、舞台を1人で始めて、曲ごとにミュージシャンが加わって行くというやり方はカッコよくも画期的で、のちにこのやり方を踏襲したバンドも多かったのではないだろうか。

 このあたり、Wikipediaでこのバンドのことを調べると、デヴィッド・バーンとティナ・ウェイマス、クリス・フランツとはデザイン学校の学生で、在学中に「パフォーマンスアートと寸劇とロックの融合を試みていた学生バンド」に出入りしていたらしい。こういうところからも、「コンサートの演出」についてもともと意識的だったことがわかる。
 また、バンドの音的には時代的にも「ニュー・ウェイヴ」「ニューヨーク・パンク」の一翼を担うとみなされていたのだろうけれども、その後アフロビートやファンクの音も吸収したわけで、けっこうライヴ音として一般受けするような「ノリがいい」「ファンキーな」音でもあったわけだし、しかもタイミングよく、1981年にはティナ・ウェイマスとクリス・フランツとが「トム・トム・クラブ」という「バンド内別ユニット」を誕生させ、その「かわいい(?)」音づくりも人気になって「おしゃべり魔女」などの(トーキング・ヘッズ以上の)大ヒットも生み出していて、この映画にもあるように、ライヴの中で「ここからはトム・トム・クラブだよ~」みたいなことをやって、ライヴの大きなアクセントにもなっていたわけだ。

 メンバーは1曲ごとに楽器を変え(ジェリー・ハリソンとティナ・ウェイマスはキーボードもやる)、特にデヴィッド・バーンはひんぱんに着替えもするし、曲ごとにそのダンス・パフォーマンスも変化させる。やはり有名なのは映画のポスターにもなっている「ガールフレンド・イズ・ベター」でのビッグスーツを着てのパフォーマンスだろう。これはデヴィッド・バーンが来日したとき、歌舞伎、能、文楽とかの日本の伝統的演劇を観て思いついたらしい。
 どうも観ていて、デヴィッド・バーンって誰かに似てると思ったのだけれども、ああ、キリアン・マーフィーに似ているんだと思いあたった。それから、彼がメガネをかけると『アラバマ物語』のグレゴリー・ペックを思い出すのだった。

 バックコーラスの2人を含めて、メンバーのほとんどがグレー系の衣装で身を包んでいたのに気づいたけど、これはやはりジョナサン・デミが舞台照明のことを考えて指定したらしい。ただ、クリス・フランツだけはコンサート初日にそういう衣装が間に合わなかったため、ツアー全体を統一させるため(どの日にも撮影が入っていたのだろう)、初日の衣装で通したらしい。

 わたしはこの映画では観客席は写らないものだと思い込んでいたけれども、実はさいごの曲で観客の姿も写されていたのだったね。
 カメラは観客席側から、そして舞台後ろから、舞台上からとさまざまなところから撮影しているのだけれども、ラストのクレジットをみると「カメラ・オペレーター」として7人の名がクレジットされていた。それがそのまま「撮影カメラの台数」というわけでもないだろうけれども、7台のカメラで撮影したという可能性はある。
 このツアー・ライヴは当初3回の予定だったらしいけれども、追加撮影のために1回追加されたのだということではあった。