ワニ狩り連絡帳2

前世のワニ狩りの楽しい思い出。ネコのニェネントとの暮らし。

『初春狸御殿』(1959)木下恵吾:脚本・監督

 「狸御殿」シリーズというのは、戦前からつづいたいわゆる「オペレッタ」映画で、2005年の鈴木清純監督の『オペレッタ狸御殿』まで、15本もの作品が残されているという。もとをたどれば、この作品も監督している木下恵吾監督が創出したものらしいのだが、その「狸御殿」シリーズ中、木下監督によるものは4本。

 この『初春狸御殿』は、タイトルからわかるようにお正月公開の「お正月映画」。見ればわかるがストーリーは二の次で、出演スターらの「歌と踊り」を楽しむのがメインの作品。
 当時は一般家庭へのテレビの普及率もずいぶん上がっていたようだけれども、まだまだモノクロ放送で(カラー放送が始まるのは1960年)、こういうエンタメ~娯楽作品をカラーで、大きなスクリーンで見られるというのは、やはり楽しみではあったのだろうと思う。

 いちおう「タヌキ」の世界のタヌキたちの物語ということで、昔話からの伝統での「タヌキは化ける」ということから、この映画でもタヌキたちは人間に化け、また一瞬にして姿を消したりできるのである。
 この映画では狸御殿に住んでいるキヌタ姫(若尾文子)が人間の世界にあこがれて家出してしまうのだが、その日は隣国の若君タヌキの狸吉郎(市川雷蔵)が訪れてキヌタ姫とお見合いするはずだったので御殿の連中は大あわて。山に「カチカチ山」の主人公だったタヌキとその娘タヌキのお黒(若尾文子の二役)が住んでいて、そのお黒がキヌタ姫にクリソツだったもので、キヌタ姫の身代わりにされる。狸吉郎とお黒はねんごろになるのだけれども、家出に飽いたキヌタ姫が帰ってきて、無事にお黒と入れ替わる。お黒は家に戻り、いつも来る薬売りタヌキの栗助(勝新太郎)と仲良くなるだろう。そういうお話。

 なんかストーリー展開に「ひねり」があるのかな?と思っていたが、な~んのひねりもなく、すんなりとみ~んなハッピーエンドに落ち着くのだった。まあストーリーを楽しむ映画ではない。
 基本はいろんな歌手が出て来ての「歌謡ショー」的な展開があり、前半はよく知られた民謡の替え歌がメインで、そこに市川雷蔵若尾文子の踊りがつづく。後半はどうやら当時のヒット歌謡曲のメドレーだったのか、「マヒナスターズ」とかも登場。あとは当時人気のコメディアンらが、とっかえひっかえ登場していたみたいだった。
 それと意外とセクシーな2匹の河童が登場。上半身はニップレスだけのセミヌードで踊るのである。こりゃあ「お正月だから」と家族で映画を観ていると、こ~んなセクシーな女性が登場するわけで、観ていたお母さんはとなりのお父さんに「あなた、コレが目当てだったのね!」と言われたことだろう。

 だいたい舞台美術も「これは歌舞伎舞踊での舞台を模しているのではないか」とも思えたし、若尾文子市川雷蔵とのデュエットの踊りもまた、まさに「歌舞伎舞踊」の様式をアレンジしたものだっただろう。市川雷蔵はもともと歌舞伎役者ではあるからこういうのはお手のものだっただろうし、若尾文子もそれまでの作品で舞妓の役など演じられているし、可愛らしくも華麗ではあられた(若尾文子、可愛いというのではこの映画がいちばんではないだろうか?)。歌舞伎と同じく花笠を使っての踊りで、ラストにその花笠越しに二人が口づけするシーンはロマンチック。

 「お正月」らしい映画、ではあった。