ワニ狩り連絡帳2

前世のワニ狩りの楽しい思い出。ネコのニェネントとの暮らし。

『パルプ・フィクション』(1994) クエンティン・タランティーノ:脚本・監督

 先日観たデヴィッド・リンチ監督の『ロスト・ハイウェイ』でも、物語が「ループ」するというか、最初のシーンがラストにつながって来るのだけれども、このタランティーノ監督の『パルプ・フィクション』でも、映画内時系列は分断されてその順序を変えて描かれている。

 この作品の冒頭とラストのダイナーでのシーンを「プロローグ」「エピローグ」としてひとつのストーリーと解釈すると、この作品には4つのストーリーが描かれていて、それぞれが「魅力的」に面白い。

①Vincent Vega & Marcellus Wallace's Wife
 ヴィンセント(ジョン・トラボルタ)は自分のボスであるマーセルスに、一晩彼の若い妻のミア(ウマ・サーマン)の護衛をし、相手をしてやってくれと言われる。こりゃ難しい指令だ。ミアの機嫌を損ねるようなサポートをするわけにはいかないし、もちろん「行き過ぎてしまって」気もちの上でも互いに「一線」を超えてはならないのだ。
 ミアは50年代スタイルのレストランに予約をしてあり、店の「ツイスト・コンテスト」に名乗り上げてヴィンセントと2人で踊り、見事にトロフィーを獲得してミアの家に帰る。ヴィンセントはトイレで「ここまでは上出来。このあとどうやってスマートに別れて帰れるか?」と考えているとき、部屋にひとり残ったミアはヴィンセントの持っていたヘロインを見つけ、コカインのように吸引してオーバードウスを起こしてぶっ倒れてしまう。
 あせったヴィンセントは友だちの家に行き、彼女の心臓にアドレナリンを注射して蘇生させる。ヴィンセントはミアを家まで車で送り、別れ際に「この事件のことは決して誰にも話さない」と約束する。

②The Gold Watch
 ブッチが幼い頃、ある退役軍人(クリストファー・ウォーケン)が訪れ、「ヴェトナムでこの金時計を守るために、亡くなった祖父とその軍人がどれだけ苦労をしたか、どのように隠し持ったか」をブッチに話し、祖父の遺品の金時計を渡した。
 時が経ち、落ち目のボクサーのブッチ(ブルース・ウィリス)は親分のマーセルスに「八百長」を持ち掛けられていたが、これを裏切って勝ってしまう。試合を終えてアパートに戻り、恋人のフェビアン(マリア・デ・メディロス)と逃走を図る。しかし途中でフェビアンが大事な金時計をアパートに忘れてきたことがわかり、一人で取りに戻るのだ。
 それが何と、道の真ん中で歩いていたマーセルスと出くわしてしまい、2人での乱闘となってしまう。2人はそのまま街角の質屋になだれ込んで乱闘を続けるが、その質屋の店主は実は変態だった。店主はマーセルスとブッチを銃で脅して捕らえて仲間を呼び寄せて、まずは奥の部屋でマーセルスをレイプする。そのあいだにブッチは縛られていた縄をほどき、さいしょは一人で逃げようとしたが思い直して引き返し、2人の男を日本刀でぶった切ってマーセルスを助ける。
 マーセルスは「今回のことはチャラにするから早くこの街を出て行き、二度と戻って来るな。そして今起きたことは決して誰にも話しちゃいけない!」と言うのだった。

③The Bonnie Situation
 ヴィンセントとジュールス(サミュエル・L・ジャクソン)は、かっぱらわれたボスのマーセルスのアタッシュケースを取り戻すため、ブレッドのいるアパートを襲う。ヴィンセントとジュールスはブレッドともう一人を撃ち殺すが、そのときトイレにいたもう一人が飛び出して来てヴィンセントとジュールスに銃を何発も撃つ。しかし弾は一発も当たらず、ジュールスらはその男も射殺し、部屋にいた情報屋のマーヴィンと共に車で帰路に着く。
 車の中でジュールスは「弾が一発も俺たちに当たらなかったのは<奇跡>だった!」と言い、ヤクザ稼業から足を洗うと言い出す。ヴィンセントは「別に奇跡でも何でもないぜ」とジュールスの言葉を否定するのだが、そのときに間違って銃の引き金を引いてしまい、後ろ座席にいたマーヴィンの頭を撃ってしまう。
 車の中は血だらけの修羅場となってしまい、とにかく2人はジュールスの知人のジミー(クエンティン・タランティーノ)の家へ行くのだった。彼らはマーセルスと連絡を取り、「始末屋」の「ウルフ」ウィンストン(ハーヴェイ・カイテル)が派遣されて来て、見事に車内を清掃され、窮状を脱するのだった。

④「プロローグ」&「エピローグ」
 仕事を終えたジュールスとヴィンセントはダイナーに立ち寄り、ジュールスはやはり「自分たちが助かったのは<神>の介入のおかげで、自分はこの仕事は辞める」と言っている。
 一方、別の席ではパンプキン(ティム・ロス)とハニー・バニー(アマンダ・プラマー)とがその場で強盗をしようとしているところだった。

 実はこの4つのストーリー、「The Bonnie Situation」と「プロローグ」&「エピローグ」とは明らかにひと続きになっているから、ストーリーは3つだとも言える。そしてその順番は一見どの順番でも入れ替え可能のようにも思えるのだけれども、ただ一点、ジョン・トラボルタのヴィンセントは、ブッチがアパートに金時計を取りに戻ったときにアパートにいて、ブッチに撃ち殺されてしまっている。これゆえに「The Gold Watch」のストーリーはいちばん最後なのだろうとは言える。

 いちおうすべての話はボスのマーセルス傘下での「ギャング・ストーリー」とは言えるのだけれども、その中の「Vincent Vega & Marcellus Wallace's Wife」はちょっと外れていて、まあ終盤にはドラッグ関係の話に収束するとはいえ、「男と女の関係にならないように気をつかう男」が女といかに遊ぶか、という話として特異というか、アメリカの長いギャング映画の歴史の中でこういうストーリーのものもあったのかもしれないけれども、トータルに「ギャング映画」と言える中でこのストーリーだけ「おしゃれ系」というか、興味深い展開だったとは思う。

 わたし的には、ブッチ(ブルース・ウィリス)の恋人のファビアン役のマリア・デ・メディロスが、ブルース・ウィリスに怒られて涙ぐんでしまうところなど可愛らしくって、この映画での「お気に入り」なのだけれども、この人は本来ポルトガルの女優さんで、ヨーロッパの映画にはけっこう出演されている。
 サラ・ポーリーの主演した『死ぬまでにしたい10のこと』にも、やはりこの『パルプ・フィクション』にも出演しているアマンダ・プラマーといっしょに出演しているみたいだ。