ワニ狩り連絡帳2

前世のワニ狩りの楽しい思い出。ネコのニェネントとの暮らし。

『ブラッド・シンプル ザ・スリラー』(1984・1999) イーサン・コーエン:脚本・製作 ジョエル・コーエン:脚本・監督

 コーエン兄弟の映画デビュー作、同時にフランシス・マクドーマンドのデビュー作、さらに撮影のバリー・ソネンフェルド、音楽のカーター・バーウェルコーエン兄弟とのなが~い関係の始まる作品でもあるし、バリー・ソネンフェルドカーター・バーウェルも、一般長編劇映画の仕事をするのはこれが初めてだったらしい。

 この作品は1999年にコーエン兄弟によって「ディレクターズ・カット版」がつくられ、いくつかのショットを短縮し、他のショットを完全に削除するなど、オリジナル版より約3分短くなった。また、この映画の中での印象的な曲(ラストにも流れる)、Four Topsの「It's The Same Old Song」が、その後のVHSでほかの曲に差し替えられてしまっていたのを、元に戻したのだということ。

 映画はまさに「ノワール・ミステリー」とでも言える内容で、登場人物はほぼ4人だけ。酒場の経営者のマーティ(ダン・ヘダヤ)とその妻のアビー(フランシス・マクドーマンド)、そしてマーティのもとで働きながらアビーと愛人関係にあるレイ(ジョン・ゲッツ)、そしてマーティに雇われる私立探偵のローレン(M・エメット・ウォルシュ)と(あと、もう一人の酒場の従業員のモーリスも出て来るが、彼はストーリー展開にはほぼ関係しない)。

 ローレンの調査で妻のアビーとレイとの関係を知ったマーティは、ローレンに一万ドルの報酬で2人の殺害を依頼するのだ。ローレンは酒場のオフィスで加工した写真をマーティに見せて、2人を殺したものと思わせて報酬金をもらったあと、アビーのアパートから盗んで来たアビーの拳銃でマーティを撃ち、出て行くが、ヒッチコック映画のように現場に自分のライターを置き忘れてしまう。
 その夜マーティのオフィスを訪れたレイは、撃たれたマーティとアビーの拳銃とを目にする。アビーがマーティを殺したと思ったレイは、マーティの死体を自分の車に乗せ、死体を始末しに行く。
 しかし死んだと思っていたマーティはまだかろうじて生きていて、レイの車から道に這い出してしまったりする。ほとんど『グッドフェローズ』の先取りのように、レイは畑の中に穴を掘り、まだ動いているマーティーを埋めてしまい、持って来たアビーの拳銃でマーティを撃つ。
 血の付いたシャツを着たままレイはアビーのところへ行き、「すべて後始末はやったから」と言う。レイはアビーがマーティを撃ったと思っているのだが、アビーは逆にレイがマーティを殺したものと思い、話はかみ合わないが、そのときにローレンがアビーに無言の電話をかける。アビーはその電話をマーティからだと思い込む。アビーの中ではマーティはまだ生きていて、アビーを追っているのだ。
  一方、もう一人の酒場のバーテンダーのモーリスは、マーティから「店の金庫の一万ドルがなくなっている」という留守電を聞いている。
 ローレンは自分のライターを取り戻すため酒場のオフィスに行き、金庫を開けようとするが、そこにアビーがやって来るので逃走する。アビーは金庫のダイヤルに「開けようとした傷」を見つけ、レイがやったものと思い込んでアパートへ引き返す。
 遅れてレイがまたオフィスを訪れ、金庫を開けて(彼はもともと金庫の開け方は知っていた)その中にレイとアビーが殺されているかのように加工された写真を見つけ、マーティ以外の人物がいること、その人物はアビーを狙うことを予測してアビーのアパートへ行く。
 アビーのアパートでレイとアビーが対峙しているところを向かいの建物からローレンがライフルで狙い、レイを射殺する。
 アビーが部屋の明かりを消してしまったので、ローレンは銃を持ってアビーの部屋へと押し入る。ローレンの考えではライターはレイが持っている可能性もあるので、レイの死体を探るがライターはない。ではアビーがライターを持っているのだろう。
 書くのも面倒な(でも、めっちゃスリリングで面白い)しのぎ合いがあって、ローレンはドア越しにアビーに撃ち倒される。それまでアビーは相手、ローレンの顔をまったく見ていないので、いまだそれは「マーティ」だと思っている。ローレンを撃ったアビーは「わたしの勝ちよ、マーティ」と言うが、倒れていた死ぬ前のローレンはその言葉を聞いて大笑いし、「あんたの亭主に会ったらその言葉伝えておくよ!」と言うのだった。洗面台の下に倒れていたローレンの眼に、洗面台の下の配管から一滴の水が落ちて来るのが見えるのだった。

 やはり、この映画のいちばんの魅力は、入り組んでいるようでストレートな脚本の「アイロニー」にあふれた展開だろうか。
 そして、思いのほかスタイリッシュな映像もまた、魅力に富んでいる。レイが「死んだ」と思っているマーティを車に乗せて行き、ちょっと車から降りたあいだに、まだ生きていたマーティが車から這い出しているというシーンの、夜の道路の上をとらえたカメラはホラーっぽいとはいえ、カッコいいのである。わたしは前の文で『グッドフェローズ』を引き合いに出して書いたけれども、今日この映画を久しぶりに観た上では、『グッドフェローズ』よりもこちらの方がいいと思った(あと、そういうのと関係はないが、レイが引っ越しで荷造りするシーンに、なぜか「月桂冠」の段ボール箱が出て来て、びっくりしたが)。

 カーター・バーウェルの音楽もいいのだけれども、面白かったのは、フランシス・マクドーマンドが男の股間を蹴上げるというカッコいいシーンで、バリの「ケチャ」のような音楽が使われるのが楽しかった(「ケチャ」はラストの方にもう一度使われたか)。
 あとはやはり、この映画の主題歌のような使われ方をしたFour Topsの「It's The Same Old Song」が、あまりにカッコいいのではある。