ワニ狩り連絡帳2

前世のワニ狩りの楽しい思い出。ネコのニェネントとの暮らし。

『天国の日々』(1978) テレンス・マリック:脚本・監督

天国の日々 [DVD]

天国の日々 [DVD]

  • 発売日: 2010/10/08
  • メディア: DVD

 何とも映像の美しい作品。撮影は基本ネストール・アルメンドロスで、契約の関係で彼が離脱したあとはハスケル・ウェクスラーが引き継いでいるのだが、ウェクスラーもアルメンドロスの撮影メソッドを継承し、「どこがどっち」などわからない仕上がりになっている。
 もちろん皆が絶賛する農園での日暮れ時の撮影の美しさは、映画のひとつの「到達点」と言ってしまってもいいような気にもなるが、それだけでなく、ハリウッド的な人口照明を排除した、室内での人物撮影の美しさもまた、賞賛されるべきだと思う。ハリウッド的な「映画づくり」に慣れたスタッフらは、アルメンドロスの撮影方法に面食らい、異を唱えたというが。

 物語は1910年代アメリカ、労働者としていろんな職場を渡り歩くビル(リチャード・ギア)は妹のリンダ(ナレーションの語り手でもある~リンダ・マンズ)といっしょだが、恋人のアビー(ブルック・アダムス)と3人でテキサスの麦農場に雇われる。アビーのことも、妹だと偽ってのことである。
 農園主のチャック(サム・シェパード)は、人を寄せつけずどこか厭世的な雰囲気の人物なのだが、ビルは偶然に、チャックが病気のため余命1年ほどなのだと聞く。
 チャックは農園で働くアビーに心惹かれ、秋に刈入れの終わるとき、「ここに残ってくれ」と頼み、求婚するのだった。
 アビーが残ることでビルもリンダも農園に残り、ビルは「チャックは1年で死ぬから」と、アビーをチャックと結婚させる。チャックにとって満たされた日々がつづき、ビルもリンダも自由を満喫する。しかしチャックはいつまでも健康そうだし、チャックの執事が「ビルとアビーは兄妹ではないだろう」とチャックに語り、疑問をぶつけられたビルは農園を出ていく。
 次の麦の刈入れの季節になり、また労働者がやってくる。そんなときにビルもまた農園に戻ってくるが、この季節、イナゴの大量発生で農園は大きな被害を受ける。そんな中、チャックはビルとアビーが「恋人同士」なのだというところを目撃し、怒りの炎を燃やす。農園もイナゴ退治のための火が拡がって火災になる。チャックはビルに銃を向けるのだが、逆にビルに刺されて死んでしまう。
 ビルとアビー、そしてリンダは農園から船で逃げ出すのだが、農園の執事は3人を追うだろう。

 ある意味すっごく単純なストーリーで、セリフ量も少ないのだが、リンダの語るナレーションは饒舌でもある。
 映画のタイトルからも、この映画が「聖書」とかにリンクしているのだろうとの印象を受けるのだが、わたしはそのあたりの基本的知識に乏しいのでどうのこうのということは出来はしない。ただ、イナゴが農園にまん延したときにイナゴを焼き払うための炎が農園を焼き尽くすのだが、その「炎」が、まさに農園主チャックの心の「炎」とリンクしていることはわかる。
 ただ作品として、その「夕暮れどき」の映像のあまりの美しさはあるのだけれども、そこでの労働者たちはまるで「天国」を満喫しているようにも見え、労働の「過酷さ」が今ひとつ伝わらなかったようには思う。

 若き日のサム・シェパードがあまりにカッコいいのだが、本来劇作家であるサム・シェパードの、この作品がほぼ「俳優デビュー」の作品だったみたいだ。
 妹を演じて、ナレーションも担当したリンダ・マンズの存在感が印象的な作品でもあるのだけれども、調べるとなんと、今から2週間ほど前の今年の8月14日に、肺癌による肺炎で逝去されていたということでおどろいてしまった(この映画でも、まだ未成年なのにタバコ喫ってたもんな~)。
 あまり多くの映画に出演されてはいなかったが、この『天国の日々』のファンだったハーモニー・コリンに請われ、あの『ガンモ』にも出演されていたという。あまりに早い逝去に、今さらながら追悼を捧げます。

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