ワニ狩り連絡帳2

前世のワニ狩りの楽しい思い出。ネコのニェネントとの暮らし。

『さらば愛しき女よ』(1975) レイモンド・チャンドラー:原作 ディック・リチャーズ:監督

 監督のディック・リチャーズという人はもともと「ライフ」エスクワイア」「ヴォーグ」などの雑誌で売れっ子のカメラマンだった人らしい。そういうところが、この映画のファーストシーン、ロサンゼルスの夜のネオン街の美しさに活かされていたのだろうか。
 製作にエリオット・カストナーという人の名があり、この人は1973年のロバート・アルトマンの『ロング・グッドバイ』の製作にも関わった人だった。カストナーはこの『さらば愛しき女よ』でも時代設定を「現代」に、と提示したらしいが、監督のディック・リチャーズは「原作の時代」にこだわったらしい。
 脚本はデイヴィッド・ゼラグ・グッドマンという人が担当しているが、この人物はサム・ペキンパーの『わらの犬』の脚本を担当した人である。
 この作品のストーリー展開はけっこうスッキリしていたというか、「そのキャスティングなら結末は予想できるぜ!」ってな感じではあったが。

 フィリップ・マーロウを演じたロバート・ミッチャムはこのとき57か58ぐらいで、さすがにちょっと老けすぎているようにも思うし、映画の中で「オレもそろそろ引退かな」なんてセリフがあったりもする。でもやっぱり彼はこういう「ノワールもの」にはぴったりの役者さんで、帽子にトレンチコートで酒のグラスを持つ姿は程よくやさぐれてもいるし、確かにカッコいい。彼は1978年にももういちど『大いなる眠り』(『三つ数えろ』のリメイク)でマーロウを演じている(次回観てみようかしらん)。
 しかしこの映画でマーロウは何度も何度もぶん殴られて気絶してしまうし、麻薬を注射されてヘロヘロになったりもするわけで、ラストまでよく死なずにいたものだと感心してしまう。

 ストーリーは、マーロウが元銀行強盗で7年ぶりに出所して来たというムース・マロイ(ジャック・オハローラン)に、かつての恋人ヴェルマを探してくれと依頼されることから始まる。
 一方マーロウは、マリオットという男から「盗まれた翡翠のネックレスの保証金の15000ドルを支払うので、支払い場所まで同行して欲しい」との依頼を受ける。同行したマーロウは殴られて意識を失い、気づいてみると依頼人のマリオットが死んでいるのだった。

 マーロウものを先に2本観ていると、一見無関係なこの二つの事柄、実はしっかり結びついているのだろうとの予測がつく。
 マーロウは「マリオット殺し」の方も調べ、翡翠コレクターのロスの有力者バクスター・グレイルに面会に行き、そこでグレイル夫人(シャーロット・ランプリング)にも会う。

 これでもう、観客としてはこの映画の謎は解けたも同然である。チャンドラーの作品のクセもある程度わかったし、ビッグネームのシャーロット・ランプリングの登場とあらば、マロイの探すヴェルマとはこのグレイル夫人に決まっておる。

 今までのマーロウ作品のように、あれこれとすったもんだがあるのだが、この作品ではやたら人が死ぬ。途中でマーロウと共に動く刑事が「もう7人も死んでるんだぞ」と語るが、最終的には十人以上が死ぬことになる。
 さいごにマーロウがマロイに「ヴェルマを見つけた、会わせてやろう」と、賭博をやっている船に案内する。う~ん、ラストは書かない方がいいだろうな。

 この作品ではマーロウの「独白」が多用され、それがひとつの魅力でもあるけれど、すべてが終わったさいごにマーロウは「オレのポケットには2000ドルが残った。使い道は決まっている」というもんで、「馬券でも買うのかな」と思ったらば、ヴェルマを探す途中で出会ってそのあとに殺されたナイトクラブのミュージシャンのアパートに向かうのだった。そこには殺されたミュージシャンの妻と、マーロウと同じに野球が好きな少年とが残されていて、マーロウはその子供のために2000ドルを持って行くのだった。マーロウ、いいヤツなんだ! このラストもアパートのネオンが印象的で、最初のシーンへとつながる感じだ。

 ムース・マロイを演じたジャック・オハローランという俳優がすっごい大男で(元プロボクサーだったらしい)、粗暴で朴訥な感じでいい味を出していた。
 あと、若き日のハリー・ディーン・スタントンが下っ端の刑事役で出演していて、これもまた「いい味」だった。