ワニ狩り連絡帳2

前世のワニ狩りの楽しい思い出。ネコのニェネントとの暮らし。

『三つ数えろ』(1946) レイモンド・チャンドラー:原作 ハワード・ホークス:監督

 昨日、リイ・ブラケットという女性のことを学んだので、アルトマンが『ロング・グッドバイ』で彼女を脚本に選んだきっかけになったという作品、同じレイモンド・チャンドラーフィリップ・マーロウもの、『三つ数えろ』を観た。この作品では、脚本になんとウィリアム・フォークナーの名も見えるのだが、どうやらこの2人で分担して脚本を書いたらしい。
 さらに当時は「ヘイズ・コード」というものもあり、映画での「性的描写」「性的ほのめかし」も禁止されていたわけで、書き上げられた脚本からそのような問題点を修正する役の脚本家もいたという。だからこの映画の中の妹の「カルメン」という女性の描写がソフトになり、原作のテイストは消えてしまったらしい。

 実はこの作品、1945年の初めにはいちど完成していたらしいのだけれども、まだ戦時中で「戦争映画」の公開が優先されたため、まずは公開は遅れた。さらにその延期中に主演のハンフリー・ボガートローレン・バコールが結婚し、さらに先に公開されたバコールの『密使』の評判が悪かったことから、制作のワーナーブラザースは大衆の人気に答えるためにも、この映画のボガートとバコールの共演シーンを撮り直したのだという。

 原題は「The Big Sleep」で、つまりはチャンドラーの『大いなる眠り』の映画化なのだが、どうして『三つ数えろ』という邦題になったのか考えていたら、劇中で2回もボガートが「3つ数えろ」と言っているのだった。

 わたしは昨日、アルトマンの『ロング・グッドバイ』でエリオット・グールドの演じるフィリップ・マーロウを観ていたわけだけれども、もちろん1970年代風にセットアップされた『ロング・グッドバイ』とは異なり、この『三つ数えろ』でのハンフリー・ボガートフィリップ・マーロウの方が、チャンドラーの原作のイメージに近いのだろうとは思う(原作のマーロウはどちらかというと小柄なボガートよりもずっと背も高かったようだが)。

 さて、観てみると、昨日観た『ロング・グッドバイ』のストーリーと似通ったところはいろいろとある。
 まずは私立探偵のマーロウが仕事の依頼を受け、依頼主に会うシーンがあり、そのあとマーロウは観客の予想を先回りして行動するというか、観客はマーロウの行動を「後追い」して、「そうか、そういうことなのか」と納得する展開になるわけだ。
 エリオット・グールドのマーロウは「1970年代」になってしまっていて飄々とした行動で、いわゆる「ハードボイルド」とはひと味ちがっていたわけだけれども、このボガートのマーロウも「洒脱」というか、いわゆる「決めゼリフ」を連発する。
 観ていると「そうか、こういうテイストが脚本のリイ・ブラケットの持ち味なのか」という、彼女流の「ハードボイルド」というのがわかるような気もした。

 ストーリーというか事件の展開はややっこしくって、Wikipedia日本版でもこの映画の項には「プロットが大変込み入っていることでも有名である」な~んて書かれているわけで、はっきりいって観ているときには「同時進行」で事件の謎を考えられているわけでもなく、ラストに「一件落着」してからそれまでの展開を思い出し、「そうか、あいつが犯人だったのか」とか「あの人物はそういうヤツだったのか」とか、頭の中で「おさらい」をするわけだ。これは先に書いた「ヘイズ・コード」を逃れるための脚本のリライトだとか、ボガートとバコールのシーンをあとで撮り直したりしたことも原因なのかもしれないが、まあヒッチコックの「ミステリー映画」を観るつもりでいると、とんでもないことになるのだ。それでも、やはりボガートのつくる「マーロウ像」はそれなりに魅力的だし、ローレン・バコールは妖しい魅力を発散していて、そりゃあこの二人を観ているだけでも満足できるのであった。